「約100人の同期のうち、すでに50人ほどが銀行を去りました」

 こう語るのは有力地銀で入行8年目のA氏30歳。有名国立大を出て支店での個人・法人営業も経験、企画セクションで社長直轄の戦略立案を担ったこともある。

「金融商品のノルマに嫌気がさした人も多かったのですが、結局、安定していると思っていた銀行の将来が見えないことに不安を感じた人が退職したのだと思います。それが証拠に転職先は地元の県庁や市役所など公務員が圧倒的に多いです。もはや銀行は安全志向の人のための職場ではなくなりました」


©iStock.com

 かつて就職市場で銀行の人気は抜群に高かった。その背景には、給与の高さに加え、その「安定性」があった。つまり高給で「潰れない会社」だと思われてきたのだ。

 しかし、それもすっかり過去の話だ。銀行は、今、大転換期を迎えている。

銀行は「安定性」を演出

 預金者から資金を集め、企業に融資する銀行融資は、「お金を借りる人(企業)」と「お金を貸す人(預金者)」の間に第三者(銀行)が存在するという意味で「間接金融」と呼ばれ、高度成長期にはうまく機能し、銀行と企業は「長期に安定的な関係」を築いた。だが、一見「安定的」に見える間接金融も、実は、決してリスクの低いビジネスとは言えない。自己資金の何倍ものお金を企業に貸し出す以上、企業からの返済が滞れば、とたんに屋台骨が揺らぐからだ。貸出債権の価値も、企業の返済余力に左右されるので外側からは見えにくい。だからこそ銀行は、「安定性がある」「信用がある」と顧客や市場や世間に思いこませる必要がある。

 事実、メガバンクは、巨額の貸し出し資産、数万の行員を擁し、大手町や丸の内の一等地に巨大な本部ビルを構える。多くの銀行員は高学歴で、スーツを生真面目に着込む。これらはいわば銀行の「安定性」と「信頼性」を演出する舞台装置だ。

 しかし、だからと言って銀行の経営が実際に安定しているとは限らない。最近でも日本のバブル崩壊後の不良債権問題や米リーマンショックなどで金融は危機にさらされた。

 ただ、こうした金融危機に際しても、多くの銀行は、「経済を安定化させる」という大義名分の下に投入される公的資金によって救済された。「だから、銀行が潰れることはあるまい。最後は政府が公的資金で救ってくれる」――おそらくこんな見方も「銀行は潰れない」という神話の根拠になっているのだろう。だが、今後も通用するとは限らない。

来店する人の数は、ここ10年で2割~3割減

 しかし、そのことよりも銀行にとってより重大な問題がある。それは、これまでの銀行のあり方が、そもそもビジネスとして限界を迎えているのかもしれないということだ。

 試しに駅前の銀行の支店をのぞいてみれば気づくだろう。そこに、かつてのにぎわいはない。あるメガバンクの幹部はこう嘆く。

「ネットやスマホの利便性が高まり店舗に来店する人の数は、ここ10年で2割~3割は減りました」

 銀行を取り巻くビジネス環境の激変に危機感を抱くメガバンクは、人員削減計画を相次いで発表している。

 たとえばみずほフィナンシャルグループ(FG)は、2017年11月、組織構造を大幅に見直す計画を発表した。7.9万人の行員のうち1.9万人を2026年度末までに削減、約500店ある店舗も24年度末までに約100店舗減らすという。三菱UFJフィナンシャル・グループと三井住友フィナンシャルグループも、これに追随し、3メガバンク合計で、3.2万人超の人員が削減されることになった。

二つの方向から挟み撃ちに

 しかし、これだけ大規模な人員削減でもまだ不十分だという。別のメガバンク幹部はこう話す。

「住宅ローンや決済手数料など従来型の個人取引で収益を伸ばす余地は、ほとんどありません。人員は、まだまだだぶついています」

 整理すれば、従来の銀行ビジネスは、二つの方向から挟み撃ちにされている。

 一つは、間接金融という仕組みそのものの限界だ。これは銀行だけではなく、これと表裏一体である個人や企業のあり方とも関わる問題である。つまり、バブル崩壊以降に顕著になった、リスクを回避して銀行に全資産を預金したがる個人のあり方、技術力などを持ちながら成長への意気込みを欠いた企業のあり方とも密接に絡み合っている。

 もう一つは、金融業務のデジタル化による革新、フィンテックがもたらす影響だ。とくに仮想通貨を生み出したブロックチェーンという新たな技術が、銀行のビジネスの核となる信用のあり方を根本から作り変えようとしている。

 間接金融の限界と技術革新の波という二つの要因によって銀行の将来が見えなくなっているのだ。

貸出先がない膨大な銀行預金

「このままでは銀行はスマートフォンのアプリの一つになりますよ」

 こう指摘するのは、三菱UFJフィナンシャル・グループの元副社長で、コンサルティング会社PwCインターナショナルのシニア・グローバル・アドバイザーである田中正明氏だ。

「巨額の資金が、ほとんどリターンもないまま銀行に眠っています。預金を集めて融資するデット・チェーン(負債の連鎖)を断ち切り、預金を投資商品にシフトさせ、企業に株式などの形でリスクマネーを供給するインベストメント・チェーン(投資の連鎖)の仕組みに切り替えないと日本の金融に未来はありません。資本市場の厚みがないことが日本の成長を鈍化させています。メガバンクや地銀といった従来型の単純商業銀行モデルは、もはや陳腐化してしまいました」

 日銀の金融システムレポートによると、2012年12月から2017年8月の約5年で、銀行に持ち込まれた預金や譲渡性預金(NCD)は131兆円も増え、日銀当座預金を中心とする現金・預け金は191兆円も積み上がった。つまり預金はこれだけ膨大に積み上がっているのに、銀行はこうした資金をほとんど有効活用できていないのだ。

 個人は、余剰資金をほとんど金利が付かない銀行に預金している。融資先を見つけられない銀行は、集まり過ぎた預金に手を焼き、だぶついた資金を銀行同士でやり取りするためだけの日銀の口座で眠らせている。

 銀行としては、元本保証で集めた資金はリスクにはさらすことはできないから、有望なビジネスでも、担保を持たないベンチャーには簡単には融資できない。こうした銀行のあり方は、企業が思い切った資金調達で果敢な経営に挑まず、低収益の経営に胡坐をかいていることや個人がリスクの高い資産運用に躊躇していることと裏腹な関係にある。

 つまり、預金という元本保証の仕組みでお金を集め、企業に貸し出す間接金融の仕組みがもはや機能していないのだ。田中氏の言う「デット・チェーン」が資金の流れを滞らせ、日本経済を停滞へと導いている。

 実際に企業向け融資は、稼ぐ力を失いつつある。みずほFGの2017年第3四半期の国内大企業向けの貸出スプレッド(利ザヤ)は、わずか0.49%。1億円を融資しても、49万円しか稼げていない。他のメガバンクでもほぼ同水準だ。

「収益も資産も健全な大企業だと、利ザヤが0.07%~0.08%というケースもあります。とても商売になりません」(メガバンク幹部)

 増えすぎた預金によって銀行間の貸し出し競争が激化し、金利の値下げ圧力が強まっているのだ。メガバンクの幹部は、苦しい現状を明かす。

「情報や戦略など付加価値が提供できなければ、法人のお客様との取引は続きません。わずかな利ザヤですが、それすらコンサルタント料の対価だと考えています」

デフレ要因の一つは、デッド・チェーンの存在

 しばしば「日銀のマイナス金利政策が銀行の利ザヤを圧迫している」と指摘される。しかし、それは表面的な説明で、原因と結果を取り違えているのではないか。むしろ根本の問題は、デット・チェーンのくびきがイノベーションの生成や生産性の向上を妨げていることだ。日本を物価が持続的に下落するデフレに陥らせた要因の一つは、デット・チェーンの存在だ。マイナス金利は、根強いデフレへの処方箋として日銀が採用に追い込まれた金融政策であって、デット・チェーンこそがマイナス金利を生み出した魔物なのである。このなかでとくに銀行が、デット・チェーンの温存に大きく寄与している。優秀な人材をフル稼働させて、すでに時代にそぐわない間接金融の仕組みを温存させているからだ。

 経営共創基盤代表取締役マネージングディレクターで金融庁参与の村岡隆史氏は言う。

「銀行は、人員、資産(店舗・システム)、預金という三つの過剰の膿出しが、まだ終わっていません。負の遺産を一掃すると同時に、稼ぐ力を付けなければいけません。ただこれは、従来型のビジネスモデルの効率化だけでは不十分です。銀行業を中抜きする産業や資金の流れは加速します。従来の銀行業の枠組みを超えて、顧客との新たな共創事業モデルを創らないといけません。そのためには組織のあり方、人材育成方法も抜本的に見直すことが問われています。安易な低金利競争をしている時間的猶予はありません」

 かつては信頼感で結ばれた銀行と企業の関係も、今日ではすっかり冷え込んでいる。前述した地銀のA氏は言う。

「法人の取引先に、うちの銀行を『他のお客様に紹介したいですか』とアンケートで質問をしたところ否定が約半分、やや否定的も加えると8割を超えました。銀行は、お客様に信頼されていないんです。社長もショックを受けていました。バブル崩壊後の不良債権処理の過程で、貸しはがし、貸し渋りをしたことで『いざという時に頼りにならない』と企業に思われているんです」

 銀行と個人との関係も歪み始めている。当面の収益目標達成のため、投資信託などの厳しい販売ノルマを現場に課している銀行が多い。メガバンクの若手行員B氏は言う。

「銀行の営業マンから金融商品を購入するのは『銀行なら安心だろう』と考えている高齢者が多い。そのため値が下がって損失が出るとトラブルになるケースも稀ではありません。ノルマもきついですが、銀行の信用を悪用しているかのような罪悪感も現場を苦しめています」