年末年始に海外に出かける人にとって心配なのが、テロや盗難などの犯罪。いったん犯罪に巻き込まれたなら、せっかくの海外旅行が台無しになるだけでなく、帰国後の人生に対しても、被害体験がトラウマとなり、暗い影を落とすことになる。


2016年3月に自爆テロにより14人が犠牲になったブリュッセル空港の爆発現場は、今も寒々しい風景をさらしている(ベルギー)。

 そこで重要になってくるのが、「備えあれば患いなし」という姿勢だ。犯罪のメカニズムに関する知識があれば、ほとんどの犯罪を予測できる。確かに、テロは予測が困難だが、それでも、知識を得ることによって被害に遭う確率を下げることはできる。

危険なのは「入りやすく見えにくい場所」

 海外で日本人が巻き込まれるテロには、二つのパターンがある。一つは、身代金目当ての誘拐で、もう一つが大量殺人だ。前者は、無防備で大金を持っていそうな日本人を狙い、テログループの活動資金を得るのが目的だが、その副産物として恐怖(テロ)も生む。後者は、日本人狙いではないものの、偶然そこに居合わせて被害を受けてしまうというものだ。

 では、どうすればテロに遭う確率を下げられるのか。それを考えるためにまず必要なことは、犯罪が起きやすい場所の条件をしっかり押さえておくことだ。犯罪学の知見によると、犯罪は領域性と監視性が低い場所で起こりやすい。分かりやすい言葉を使えば、「入りやすく見えにくい場所」が危険な場所ということだ。

 こうした視点は、犯罪機会論と呼ばれている。それは、犯行の機会(チャンス)の有無によって未来の犯罪を予測する考え方である。ここで言う、犯罪の機会とは、犯罪が成功しそうな雰囲気のことだ。そういう雰囲気があれば、犯罪をしたくなるかもしれない。しかし、そういう雰囲気がなければ、犯罪をあきらめるだろう。つまり、この雰囲気の有無が犯罪の発生を左右するのである。


危ない人は見ただけでは分からないが、危ない場所は見ただけで分かる。所有者不明の荷物に注意を向けるように促すビジュアルな啓発ポスター(アメリカ)

景色の中で安全と危険を見分ける「景色解読力」

 話を元に戻そう。誘拐犯が日本人にターゲットをロックオンした後、どう動くか。そこが、「入りやすく見えにくい場所」なら、いきなり襲ってくるかもしれない。なぜなら、「入りやすい場所」ということは、「出やすい場所」でもあるので、無理やり連れ去ることも容易だからだ。そして、「見えにくい場所」なら、無理やり連れ去るところを目撃されずに済む。

 例えば、絶景ポイントはどうだろう。そこにたどり着くのが容易なら「入りやすい場所」で、周囲に展望レストランなどがなければ「見えにくい場所」だ。しかし、幹線道路まで遠いなら「入りにくい場所」で、土産の売り子が多ければ「見えやすい場所」となる。その場の景色を見て、「入りやすさ」と「見えにくさ」という物差しで、今現在の危険性を測ることが必要なのである。


2016年7月にレストラン襲撃テロで日本人7人を含む20人が犠牲になったダッカでは、ホテルのセキュリティも強化されている(バングラデシュ)。

 一方、そこが、「入りにくく見えやすい場所」なら、誘拐犯はだまして連れて行こうとするだろう。例えば、土産物屋が取り囲んでいるような場所では、いきなり襲うことは難しい。しかし、話しかけるだけなら、周囲から目撃されても警察に通報されることはない。誘拐犯は親しげに近づいてくる。日本語で話しかけてくるかもしれない。「ガイドブックに載っていない絶景ポイントを知っているよ」「一番有名な土産物屋を教えてあげる」。そう言って、「入りやすく見えにくい場所」に連れて行くのだ。

 こうした誘拐の手口は、強盗の場合も同じである。日本語の旅行ガイドブックを広げていると、日本から来た観光客であることが分かってしまう。さらに、歩きスマホをしていると、無防備であることをアピールするだけでなく、その場所の景色を無視しているので、二重の意味で、危険を呼び寄せてしまう。誘拐や強盗に遭わないための最強の武器は、景色の中で安全と危険を見分ける「景色解読力」なのである。