人間である以上、ネガティブな感情を完全に制御することは難しい。それでも「怒り」がいかに社会生活や家庭生活で不利益をもたらすのかを理解しておけば、ある程度の抑制効果はあるはずだ。「怒り」が原因の「本当にあった怖い事例」を紹介しよう――。

■夫婦のイザコザで、毎晩の飲み代が急激に膨張

怒りっぽいと、金銭的にも損をしがちなのか。生活マネー相談室代表の八ツ井慶子氏は、これまでの相談事例から次のように語る。

「お金の使い方というのは、その人の“マインド”そのものといってもいいくらいなんです。例えば、『これを買う』という意思決定には、自身の性格やそのときの精神状態が反映されます。特に浪費や無駄遣いの場合は顕著なんです」

相談者の家計簿にほかより金額が高い費目があったとき、八ツ井氏が尋ねるのは、「何を買ったのか」ではなく、「なぜ買ったのか」だ。



「最近男性に多いのが、ストレス発散のために買い物をするケース。ストレス買いは女性のイメージがありますが、男性でもあるんですよ」

男性は、いつも仕事で使う靴やカバンをワンランク上にしたり、スーツをオーダーメードにしたり、仕事に直結する散財が多いという。

「もう1つ要注意なのが、飲み代が増えるケースですね。仕事のイライラのはけ口として酒量が増えるのはわかりやすいのですが、この前相談に来た30代後半のご主人の場合は、夫妻間のイザコザが原因でした」

その夫婦には小さい子供がいて、毎晩寝かしつけるのは妻の役目。夫が会社から帰宅する時間がちょうど寝かしつけた直後に当たることもあり、そのたびに「どうしてこんな時間に帰ってくるのよ! 物音で起きるじゃない」と文句を言われていたそう。

「俺は悪くない!」と夫は反論し、お互い一歩も譲らず。妻の態度にイライラを募らせた夫は、まっすぐに家には帰らず、酒場で同僚などに妻の愚痴を言うのが日課になってしまったというのだ。

「帰宅時の物音の対策を取る、帰宅する時間や寝かしつけの時間を連絡し合うなど、解決策はあったはずです。お互い腹を立てているので、冷静になれなかったのでしょう」

■「孫の声を聞く楽しみを奪うのか」

家計にはその家庭の事情が色濃く反映される。「家計相談は、人生相談でもある」と言う八ツ井氏が、怒りっぽい人の特徴として指摘するのが「聞く耳を持たない」こと。

「例えば、月2万円を浮かすことができれば、40年で1000万円近くも節約できます。逆に言うと、月2万円の浪費を放っておくと、家計はボディブローが効いたようにゆっくりと弱っていくことになります。相談者には、まずご自身の家計を客観的に見てもらい、少額でも改善できるところを一緒に探っていくのですが、怒りっぽい人ほど現実や他人のアドバイスを受け入れない傾向があるんです」

「かつて自営業で羽振りのいい暮らしをしていた50代の男性が、リーマンショック後の不況で職も貯蓄も失ってしまい、相談に来たことがありました。収入のない今も生活水準が下げられずにいるようで、家計簿には明らかに使いすぎだという費目がたくさんありました」

そこで、通信費の節約を提案したところ、「孫の声を聞く楽しみを奪うのか」と声を荒らげ、食費の高さを指摘すると「この年になってマズいものは食べたくない」と拒み、結局、保険の内容を見直す程度しか手を打てなかったという。

「散財に悩んでいる人は、家計に問題があることを心のどこかで理解しているようですが、この方のように、それを認めるのが怖くて、現実逃避している場合があります。お金の使い方を見直すというのは、単純に行動を変えるということではなく、考え方や価値観を変えることでもあります。痛みが伴うのは当然なのです」

そのイライラが、気づかないうちにお金を遠ざけていることもある。なぜか貯まらないという人は、自分の内面と向き合ってみてはどうだろうか。

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八ツ井慶子
大手信用金庫を経て、2001年FP活動開始。13年独立。城西大学非常勤講師。著書に『レシート○×チェックでズボラなあなたのお金が貯まり出す』(小社刊)。 

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(友清 哲 撮影(八ツ井慶子氏)=吉澤健太)