藤本貴之[東洋大学 教授・博士(学術)/メディア学者]

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サントリーのCMに出演したモデル・水原希子に対する、出自・人種差別的なヘイトツィートが問題になっている。簡単に書いてしまえば「水原希子はアメリカ人と韓国人のハーフなのに、日本名を使って活動しているエセ日本人だ」という差別攻撃である。

もちろん、どのような状況であれ、人種や国籍・出自での偏見による差別などあってはならないし、そんなことが話題になったり、炎上すること自体に日本のネット社会の国際性の低さや未熟さを感じる。

一方で、今回の騒動の本質は、単なる人種や出自に対する差別や偏見だけから来ているわけではない、という点に本当の問題があるのではないか。水原希子自身のこれまでの言動に騒動の要因、炎上の原因があるように思えるからだ。

水原希子は、父親がアメリカ人で母親が在日韓国人ある。しかしながら、在日韓国人の母親は、もしかしたら生まれも育ちも日本で、国籍や出自が韓国だとしても、その実態は「ほぼ日本人」である可能性は高い。

世代によっては韓国への渡航(帰国)経験がなかったり、戸籍名である韓国名さえあやふやである可能性もありうる。その子供(水原希子)であれば、よほど意識的・政治的でもない限り、韓国人というよりは、育った環境=日本人という意識の強くなっているはずだ。

例えば、水原希子の本名は「オードリー・希子・ダニエル」である。アメリカ人の名前と日本人の名前が組み合わされている。これは、母親自体が日本に強いアイデンティティを持ち、「日本人とアメリカ人のハーフ」という意識が高かったことからのネーミングであることは、想像に難くない。

外国出身者が、日本人名を使い、日本人として生きて、広く活躍しているような人は、個人的には日本人として非常に嬉しくさえ思う。「青い目の議員」として有名なフィンランド出身の帰化日本人ツルネン・マルテイ(弦念丸呈)元参議院議員の話などは感動さえ覚える。

日本人としてアイデンティティを持ち、生活をしているのであれば、日常生活であえて出自をアピールする必要もない。今後、日本がますますグローバル化してゆく中で、それらは「どうでもイイこと」として消えてゆくべきものだろうし、そうであるべきだ。

よって、日本で育ち、日本名を名乗り、日本で芸能活動をしてきた水原希子の出自や国籍・血統などは、あえて表明する必要もないし、聞く必要もなかったことである。実際、人気女優・水沢エレナのような日韓ハーフの芸能人は多いが、誰も出自を批判の対象として気になどしていない。

しかし、そんな本来「どうでもイイこと」を、水原希子は自らの言動から「どうでもよくないこと」にしてしまったことが、一連の騒動の発端であり、炎上を加速させる原因であるように思える。

【参考】<チェーンソーYouTuber>メディアを勘違いした「SNSバカ」たちの狂騒

2013年に、天安門に向けて中指を立てた中国の現代美術家の写真作品に対して、水原は自分のインスタグラムで「いいね!」を押したことから、中国で大きな批判が起きた。莫大なフォロワー数を誇る水原のアカウントは、一般人のそれとは意味合いが異なる。政治的に踏み込んだ意思表明ととられかねない行動なのだから、非常にリスキーだ。深く考えずに「いいね!」という意思表明をした水原希子の行為が浅はかであることは間違いない。批判や議論が起きるのは当然で、これに言い訳などできない。

この時、中国でバッシングを受けた水原は、SNSに謝罪動画を投稿する。その中で、自分がアメリカ人の父と在日韓国人の母親を持ち、日本人ではないことを強調した。その時の謝罪動画は、自分は平和主義者であり、戦争には反対するという前提のもと、「3つの事件」について釈明をする、という体裁をとっている。