1940年、連合軍の兵士40万人が、ドイツ軍によってドーバー海峡に面したフランス北端の港町ダンケルクに追い詰められる。ドイツ軍の猛攻にさらされる中、トミー(フィオン・ホワイトヘッド)ら若い兵士たちは生き延びようとさまざまな策を講じる。一方のイギリスでは民間船も動員した救出作戦が始動し、民間船の船長ミスター・ドーソン(マーク・ライランス)は息子らと一緒にダンケルクへ向かうことを決意。さらにイギリス空軍パイロットのファリア(トム・ハーディ)が、数的に不利ながらも出撃する。

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 2017年の映画館での24作目。19時からの回で、観客は50人くらいでした。
 近場にも上映館はあるのだけれど、ネットでIMAXで観ると迫力が全然違う!という話を読んだので、九州で1ヶ所だけしかないIMAXのスクリーンまで行ってきた(ちなみに、僕が観たのは、キャナルシティ博多の「ユナイテッド・シネマ・キャナルシティ13」です)。

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 入場したとき、画面の大きさには驚いたけれど、まあ、こんなものなのかな、と思いつつ観はじめたら、最初のシーンの銃撃の音で、思わずビクッと身体が反応してしまいました。
 画面の広さはけっこうすぐ慣れてしまうのだが、効果音がすごい。というかこれ、音だけでも人によってはトラウマになりそうな気もします。
 自分が絶対に死なないという条件で「戦場体験」できるという幸運。これを観たら、大部分の人は、戦場に行きたいなんて、まず思わなくなるはずです。

 ストーリーらしいストーリーもなく、ただ、ダンケルクから脱出しようともがく兵士たちと、彼らを母国に連れて帰ろうとするイギリスの市民たちの姿を丁寧に描いているだけ、の映画なんだよね、これ。ドイツ軍はほとんど出てこないし。
 戦争映画だから、ドイツ軍と連合国(イギリス・フランス)軍との激しい戦闘シーンが満載なのかと思ったら、撤退戦とはいえ、戦闘というよりは、一方的にドイツ軍に攻撃されてばかりです。

 イギリスの兵士たちが、フランスの兵士たちを差別したり、自分が生き延びるために、味方を蹴落としたり、というかなり居心地の悪いシーンもあります。

 なんとかドーバー海峡を渡ってイギリスに戻りたい。ドーバー海峡は泳いで渡る人がいるくらいの距離なのだけれど、それでも、敵に包囲された40万人の兵士にとっては、絶望的な距離なのです。

 それにしても、本当に、「大きなストーリー」がない映画なんですよ。
 氷山に激突したあとの『タイタニック』みたいな状況を延々と見せられて、イギリスの民間船で起こった苦々しい出来事も目の当たりにして、その一方で、飛行機のパイロットが厳しい状況のなかで、味方を救うためにギリギリの出撃をしていく姿もあって。

 個々の登場人物が置かれた状況のなかでやっていることを、個々の視点で描いているだけです。
 ダンケルクが、全体としてどういう状況なのかは、個々の兵士にもわからなかったように、この映画の観客にもわからない。

 先日観た『関ヶ原』では、「石田三成が味方を説得してまわっているうちに、いつのまにか西軍が負けていて、戦場の全体像がわからない」と不満を述べたのですが、この『ダンケルク』は、個々の人々がみた「戦争」を体験する映画なんですよね。
 映画としては、『ゼロ・グラビティ』に近い感じがしました。

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 こうしてみると、僕は、ストーリーや役者の演技よりも、「映画館でしかできない体験」に魅力を感じる傾向があるのだな、と痛感します。
 「アトラクション映画」が好きなんでしょうね。

 最後、なんだか僕も故郷に帰ってきたような気分になって、そして、戦争という状況で発揮される自己犠牲の精神や強靭さ、みたいなものを認めざるをえないような気分にもなって、船酔いしつつも感動の涙を流していました。

 第二次世界大戦では、日本人の精神主義が欧米の経済力や物量に負けた、と僕はずっと思っていたのだけれど、クリストファー・ノーラン監督が描いたこの作品をみると、イギリス人の愛国心や共に戦う、という意志の強さを思い知らされたのです。

 精神力の戦いでも、イギリス人のほうが勝っていたのかもしれない。

 ダンケルクで起こったことは、歴史年表でみる「ダンケルクから40万人の連合軍が撤退」という記述だけでは伝わらない。