昨日、人気ユーチューバーのヒカル(以降、ヒカル氏)が謝罪動画を公開した。先日から度々報じられたVALU(バリュ)というウェブサービス上で起きたトラブルに関する内容だ。

ヒカル氏は自身の保有する全てのVALUを売り出したことにより、ヒカル氏のVALUを保有する人に損害を与えたとして大きな話題として取り上げられた。その後は規約変更が新聞でも報じられるなど、VALUはベンチャー企業が提供するウェブサービスとしては異常なほどに注目を浴びるようになる。


「いつも応援してくださっている皆様へ」 ヒカル氏・youtube公式チャンネルより 2017/09/04公開の謝罪動画

先日はTOKYO FMのタイムライン(8/30 19:00~)という番組に出演し、人気ブロガーのちきりんさんとVALUの可能性と問題点について説明した(放送はこちらで視聴可能26分あたりから)。ラジオで話したことも含めて、以下、3つの点から今回の騒動と謝罪動画について言及してみたい。

1.騒動は予見されていた
2.ヒカル氏の言動は違法なのか?
3.ヒカル氏とVALU社の責任、および他にお金も持ち逃げしている人への対処は?


■1.騒動は予見されていた。


VALUは「個人が上場する」という極めて変わった趣旨のサービスとして開始した。会社が株式上場して株を売って資金を調達するように、個人でも資金調達が出来る……。おそらくこの説明では何のことやらと思われてしまうかもしれないが、VALUへの上場を申請する際にはフェイスブック、ツイッター、インスタグラムなどのSNSと連携させることで、フォロワー数によって当初株の代わりとなるVALUの発行数と時価総額が決まる。

売買にはビットコインを間に挟むものの、ビットコイン自体が仮想通貨と呼ばれ円との交換が容易なため、自身に割り当てられたVALUを売ると実質的にお金を調達できる、ということになる。

※VALUに関する基本的な仕組みは「個人が上場できる」と話題のVALUは「マネーの虎」であるを参考。

VALUの一番の特徴は株取引を模している面だろう。売買の画面はネット証券の画面とおり二つで、発行されたVALUの価格も取引に応じて上下する。その一方でVALU自体は規約によって買い手に何の権利も保障しないものであり、株主が会社に配当を要求したり経営者の変更を株主総会で決議したりするように、発行した人に対して何かを強制する権利は一切ないことになっている。VALUは株のようで株でないもの……といった説明になる。

「VALU」が開始から2か月で日本の株式市場を超えた理由では、VALUの仕組みをトレーディングカード、ファンクラブ、ゴルフの会員権、マネーの虎、そしてAKB48の総選挙と様々なものに例えた。それだけ多様な要素を内包しているものということだ。

一方で7/25の時点で書いたこの記事では二つの問題点を指摘した。

「夢や目標があるのにお金が無くて実現できない人を応援する」というVALUの理念がある一方で、現実にはSNS上で多数のフォロワーを抱える(さほどお金に困っていない)有名人が知名度を換金する場所になっている、という問題。

もう一つが金融商品でないことから、株式市場では禁止されている行為が可能なため、「相場操縦」が容易であるという点だ。

ヒカル氏が行った保有VALUの全放出によりVALUのホルダーに発生した損失は、上記の相場操縦の結果であり、売却によって得た5000万円とも言われる資金はヒカル氏がユーチューバーとして得た知名度を換金した結果である。

■想定通りのトラブルに。


証券市場で起きる程度の問題は今後すべて起きる、電話を使った犯罪が起きてもNTTは叩かれないが、LINEのような新しいサービスが犯罪で利用されれば徹底的にたたかれる、とも書いた。今回の件が仮に詐欺事件であったとしても、5000万円程度の詐欺事件がこれだけ多数のメディアで大きく取り上げられることはまずない。全て記事で書いた通りのことがそのまま起きたということになる。

オレはこの騒動を予見してたんだぜ!という自慢話をしたいわけではなく、以前の記事で書いた程度のことは他の多くの利用者もVALUの運営会社も把握していた話だ。したがって、当初大量売却が問題になっていると聞いた時には「みんな分かってたんじゃないの?」と不思議でしょうがなかった。

大量売り出しはヒカル氏本人にも損失をもたらしている。VALUの価格が下がっているからだ。上手く売買すればヒカル氏はもっと多くの資金を、何のトラブルもなく手にすることができたはずだ。逆に言えばそのような状況があるため、合理的に考えれば全てのVALUを一気に売り出すメリットが上場した人にはない。

そのような性善説を前提にシステムが設計されていたため、ヒカル氏の滅茶苦茶な行動に対応できなかったともいえる(現在は規約変更により、発行VALU数の10%までしか一度に売りに出せない)。

■2.ヒカル氏の言動は違法なのか?


ヒカル氏のVALU全放出により損失を被った人が多数いた事で大騒ぎとなったわけだが、資金調達をするにはVALUを売り出す必要がある。VALUの規約でも当初は売却数に制限はついていなかった。他に大量売却をしている人もいた。大量の売却自体は規約上問題なく、法律上の問題になるはずもない。

問題視された点は、ヒカル氏が事前に優待(VALUを保有する人へのオマケ)をそれとなくほのめかすような言動があったこと、全放出の前日に翌日何かをやるという予告をしていたことなどが挙げられている。

価格を下げ、ホルダーに損失を与えることは自身が損をすることでもある。したがってヒカル氏が何かをするということはヒカル氏本人にもVALUのホルダーにとってもメリットのある事であるという期待を結果的に持たせた。しかし実際には全放出で損が発生した。これが嘘をついてVALUを売り出してホルダーに損を与えた、ということで詐欺ではないのかと言われている理由だ。

ただ、VALUというウェブサービス上で期待を持たせる言動と売却が結びついたことが果たしてどの法律に抵触するのか、極めて不透明だ。損をした人がいたことは間違いないが、価格変動があることは全ての参加者が理解したうえで参加している。損失の幅については想定を超えている人もいたかもしれないが、この点に関する説明責任はヒカル氏ではなくサービスを提供するVALU社にある。

そもそも「発行されたVALUを、ビットコインを介して売る」という行為が法律上どのような行為に相当するのか明確になっていない。たとえばVALUは価値の裏付けがないのだからVALUを売って資金を受け取ることは贈与にあたる、だから贈与税が発生するのではないか、という意見がある。一方で贈与ではないという意見もある。この点について様々な見解はあるが、少なくとも国税庁からの正式な見解は示されていない。

結局、贈与なのか、モノや情報(コンテンツ)や役務(サービス)の売買なのか、それともまた別の行為になるのか、現時点で明確にはなっていない。ヒカル氏の行動については弁護士によって見解はいくつか出されているが、当然のことながら弁護士の見解で法的な扱いが決まるわけではない。ヒカル氏のやったことがろくでもない行為であることは間違いないが、ろくでもない行為が全て違法行為ではない。