写真)ロバート・E・リー将軍の銅像 バージニア州シャーロッツビル Photo by Cville dog

古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)

【まとめ】
・米で南北戦争の南軍の指導者たちの銅像撤去の動き広がる。
・背後に民主党勢力のトランプ政権攻撃の政治的意図がある。
・米の人種的対立はオバマ政権時代から起きていた。

 アメリカの各地で南北戦争の南軍の指導者たちの銅像を撤去する動きが広がってきた。奴隷制度を守ろうとした南部の当時の動きを改めて否定するという趣旨だが、その背後には民主党系勢力によるトランプ政権攻撃の政治的意図もからんでいる。150年前に終わった南北戦争後の和解を崩すようなこの動きへの反対も幅広く、激しい論争も展開され始めた。

 全米を揺るがせたバージニア州シャーロッツビルでの8月12日の人種問題をめぐる騒動もそもそもの原因は南軍司令官のロバート・E・リー将軍の銅像の扱いだった。南北戦争当時の南部連合(アメリカ連合国)の要衝だったシャーロッツビル市には長年、リー将軍の銅像が建てられてきた。だが最近になって同市の市議会はこの銅像を「奴隷制擁護の象徴」だなどという理由で撤去することを決めた。

 8月12日にはその撤去に反対する白人至上主義などの団体が抗議集会を開き、黒人主体の撤去賛成派とぶつかって、抗議側の1人が車を相手側群衆に乱入させ、死者1人を出した。この出来事が全米で南部の歴史保存への反発を広げる契機となった。(図1)

(図1)リー将軍の銅像に抗議するデモ隊に突っ込む白人至上主義者の車
Tweet by @RyanMKellyPhoto

 だがリー将軍の銅像撤去の動きの背景にはオバマ政権時代の2015年6月、同じ南部のサウスカロライナ州チャールストンでの白人過激派による黒人襲撃事件があった。(写真2)

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(写真2)エマニュエル・アフリカン・メソジスト監督教会、襲撃事件後の追悼に訪れる人々 サウスカロライナ州チャールストン2015年6月20日 Photo by Voice of America

 黒人への反感を叫ぶ白人青年が黒人信者の多いキリスト教会で銃撃して、9人をも殺したのだ。その際に犯人は南北戦争での南部連合の旗を掲げていた。この「旗」の事実が南軍の英雄たちの銅像の否定にまでつながったともいえる。だからこの南部否定のうねりオバマ政権時代に起きてきたわけだ。

 それがいま全米規模に広かったのは南部否定の流れに民主党系の政治家や活動家が集まり、トランプ政権攻撃の材料のようにして熱をこめ始めた要因が大きい。トランプ大統領が8月12日のシャーロッツビルでの事件の直後に白人至上主義側を非難せず、衝突した双方が悪いという趣旨の反応をみせたのは、南部が象徴した人種差別に加担するからだ、という糾弾が反トランプ勢力側から激しくぶつけられた。

 しかしトランプ大統領は8月22日、南西部アリゾナ州のフィニックスでの支持者集会で1時間15分にもわたって演説し、シャーロッツビル事件では自分はその直後から白人至上主義側をも激しく非難していたという言明を繰り返し、その言明を無視するのは民主党系の主要メディアだと攻撃した。(図2)


(図2)トランプ大統領のツイート

 だが南部否定の動きはなおその輪を広げ始めた。南部のノースカロライナ州ダーラムでは14日、反対派を支持するデモ隊が1924年に設置された南部連合の兵士像を引き倒した。東部メリーランド州ボルティモアでは16日、市内の公園などにあったリー将軍の像など4基の記念碑を市当局が撤去した。東部ニューヨーク州でも16日、ブルックリン地区の教会近くにあるリー将軍の記念プレートを撤去した。

tom vincent

(写真3)倒される前の南部連合兵士像、ノースカロライナ州ダーラム
出典)North Carolina Civil War Monument HP Photo by Tom Vincent