■「敵基地攻撃能力」開発予算はどうするのか

「首相はすでに、防衛力整備の指針である『防衛計画の大綱』の見直しを小野寺氏に命じた。見直す分野として、南西地域の防衛や弾道ミサイル防衛の強化、宇宙・サイバーを挙げている」

「脅威に対応して防衛力を強化する姿勢は妥当である。しかし、自衛隊が保有していない敵基地攻撃能力について『現時点で具体的な検討を行う予定はない』と述べているのは物足りない」

「新大綱の閣議決定は来年12月とされる。予算化が図られるのはさらに後だ。北朝鮮の暴走にいつまで手をこまねいているのか」

実にストレートな表現が続く。繰り返すが、問題なのは産経社説の表現ではなく、バランス感覚を失った一方的な思考である。

保守で固まった安倍政権の防衛政策を「物足りない」とまで言い切るのだから、たいした度胸である。それに敵基地攻撃能力を開発するための巨額な予算や高度な技術力はどうするのか。

■「敵基地攻撃能力」の保有は合憲?

そもそも敵基地攻撃能力とは具体的にどんな兵器を指すのか。そう考えて読み進むと、産経社説には次のように書く。

「日本としては、攻撃のための航空機や精密誘導爆弾・ミサイル、長距離を飛ぶ巡航ミサイル『トマホーク』に加え、敵の発射拠点の把握や空中給油などの装備を順次整えていけばよい」

「自衛隊が一定の攻撃能力を持つことは、国民の命を守る上で死活的に重要だ」

こう主張したうえで「政府は敵基地攻撃能力の保有は合憲との見解を長くとってきた。憲法の平和主義の精神に反するといった反対論は、国民を危険にさらすことになる」と強調する。

敵基地攻撃能力の保有は合憲? 反対論が国民を危険にする? 果たしてそうだろうかと思って次を読むと、産経社説は「あくまでも自衛のための能力であり、侵略とは結びつかない」と弁明する。この辺りは産経社説も自信がないのだろう。まだまだ議論すべき余地がある。

■読売社説も「北の脅威」を強調

朝日や産経に1日遅れて8月10日付で防衛白書の社説を書いたのが読売新聞だ。

読売社説は「『新たな脅威』へ対処力高めよ」という見出しを立て、「増大する北朝鮮の脅威に備えるには、それに応じた防衛装備を導入し、対処能力を着実に高めることが大切である」と強調する。

「多数のミサイルを同時発射し、相手国の防御網を破る『飽和攻撃』に必要な『正確性及び運用能力の向上』に、白書は初めて言及し、警鐘を鳴らした」

「通常より高く打ち上げる『ロフテッド軌道』での発射を繰り返すことで、『長射程化』への懸念も示している。北朝鮮の技術力の急速な進展は疑う余地がない」

「北朝鮮が再三、日本攻撃を公言する中、防衛省は、迎撃ミサイルSM3搭載のイージス艦の8隻体制の実現と、地上配備型誘導弾PAC3などの改良を急ぐべきだ。陸上配備型イージスシステムの新規導入も決断する必要がある」

こう書き連ねた後、読売社説は「敵基地攻撃能力の保有も前向きに検討する時期ではないか」と産経社説と同じように主張をする。同じく日報隠蔽問題には言及すらない。

■同じ保守系でも内容に幅がある

産経社説と異なるのは社説の終盤で中国とロシアに触れている点である。中国についてはこう言及する。

「中国がアジアの安全保障環境に与える影響について、白書は『強く懸念される』と前年より踏み込んだ。東・南シナ海での『力を背景とした現状変更』の試みなど、『高圧的とも言える対応』を継続させているとも強調した」

「警戒すべきは、中国軍艦艇や航空機の活動範囲の拡大である」

「自衛隊は、海上保安庁とより緊密に連携し、警戒・監視活動に万全を期すことが求められる」

さらにロシアに関しては「ロシア軍を巡って白書は、昨年11月の択捉、国後島への地対艦ミサイル配備を問題視している」と指摘し、「日露両政府の北方領土交渉が続く中で、一方的な軍備増強は看過できない。強く抗議し、自制を粘り強く促すことが欠かせない」と訴える。

産経社説に比べて読売社説の方が1日遅れた分だけ、内容に幅がある。同じ保守系の主張でも、産経より読売のほうが読み応えがある。

同じ防衛白書をテーマにした社説でも、新聞によってこれだけ書き方が違う。各紙のスタンスもよくわかるはずだ。だから新聞は読み比べて味わうものなのだ。各紙の社説はウェブサイトでも無料公開されている。ぜひ読み比べてみてほしい。