米軍にとってのテスト

 第二のシナリオは、北朝鮮のミサイル発射を米軍がミサイル防衛システム(MD)にとって絶好の試験台と捉えている場合です

 米シンクタンク、アメリカ進歩センターのミサイル専門家、アダム・マウント氏はCNNのインタビューに答えて、北朝鮮がミサイル4発を同時に発射すると言っていることから、米軍のMDの能力を試す意図があると指摘しています。それによると、「もし4発のうち1発でも米国のMDを突破すれば、北朝鮮にとって大勝利になる」

 ただし、相手の能力と自分の能力をテストしたい点では、米国も同じです

 米軍は地上配備型のPAC3やイージス艦搭載型の迎撃システムなど、飛来するミサイルを迎撃するMDの実験を、これまでにも数多く実施してきました。しかし、現状のMDでは、自軍がテストで発射するミサイルを迎撃することも、100パーセント確実というわけではありません。その意味で、北朝鮮がグアム近辺の海に着弾させると予告している今回のケースは、限りなく実戦に近い状況で、米軍のMDを試す機会になります

 米シンクタンク、ランド研究所のブルース・ベネット氏は、やはりCNNのインタビューのなかで、「もし迎撃に成功すれば素晴らしいが、仮に迎撃が成功しなかったとしても、大きな問題ではない」と述べています。なぜなら、「北朝鮮のミサイル迎撃のためにMDが使用されるのは初めてで、もし失敗したなら、システムに何か問題があることになる。それは戦時より平時に見つける方がよい」からだといいます。

 米軍にとってMDの有効性を試すテストを行うことは、北朝鮮に対してだけでなく、ロシアや中国、イランなどをも念頭に置いた国防計画において意味があります

 特にホワイトハウス関係者が相次いで辞職・罷免されるなか、政権の新たな柱になりつつあるマティス国防長官は、アラブ諸国との友好関係を重視する一方、就任以前からロシアへの警戒感を隠していませんでした。北朝鮮をはるかに上回る核兵力をもつロシアと対抗するうえでMDの重要性は大きいことに鑑みれば、米軍が北朝鮮を「ダシにする」インセンティブは小さくないといえるでしょう。

二人組の刑事

 第三のシナリオは、トランプ氏がティラーソン国務長官と「二人組の刑事」を演じている場合です

 昔の刑事ドラマでは、「強面で気の短い刑事」が容疑者に威圧的に自白を迫り、それを「話の分かる相棒」が「まあまあ」となだめ、容疑者に穏やかに話しかけ、(カツ丼をとったりして)自白を促すというパターンがよくありました。これは追い詰められた状況で、一方に強硬な相手がある場合、もう一方の(強硬な相手と繋がっていると分かっていても)温厚な相手に頼ろうとする人間の心理をつく手法といえます。

 北朝鮮問題に関していえば、ティラーソン国務長官は8月1日に「我々は敵ではない」と述べ、北朝鮮政府の最優先事項といえる「体制の維持」を前提に、北朝鮮に対話を求めてきました。これに加えて、ティラーソン氏は中国へも仲介の働きかけを続けている他、トランプ氏の「炎と怒り」発言に関しても「大統領は強いメッセージを送る必要を感じた」と火消しに努めています。

 この様子を「二人組の刑事」というアングルでみると、トランプ氏が「強面で気の短い刑事」、ティラーソン国務長官が「話の分かる刑事」という役どころになります。それは容疑者の役どころにある北朝鮮に、「ティラーソン氏を経由して米国と話し合う方が得策」と思わせる舞台装置といえるでしょう

 その一方で、マティス国防長官を含め、軍出身者がホワイトハウスで発言力を増すなか、トランプ氏とティラーソン氏の間には方針の違いが目立つようになっていることから、「ティラーソン国務長官は年内いっぱいで辞職する」という情報も取りざたされています。その真偽は定かでありませんが、少なくともこの情報が出回ること自体、北朝鮮に「ティラーソン氏の在任が短いなら、今を逃すと交渉に向かうチャンスは多くない」と思わせるものことは確かです

 つまり、この場合、「政権の不一致」とみせかけてトランプ氏とティラーソン氏が二人三脚で北朝鮮にアプローチしていることになりますが、このシナリオが正しいかはティラーソン氏の在任によって測られることになるでしょう。もし仮に、年末を待たず早期にティラーソン氏が辞任するなら、それは「政権の不安定」という別の問題として浮上することになります。

3つのシナリオの共通項

 ここであげた3つのシナリオのいずれが妥当かは定かでありません。恐らく真実は、3つの中間地点にあるのかもしれません。

 しかし、いずれにせよ、これら3つのシナリオはいずれも「北朝鮮がすぐに米本土に直接ミサイルを発射することはない」という目算に基づいている点で共通します

 第1、第2のシナリオはそれが鮮明ですが、北朝鮮にとって最優先事項である体制の維持をティラーソン氏が確約する第3のシナリオにしても、「北朝鮮との交渉」を念頭に置いています。北朝鮮がすぐにでも攻撃してくると米国政府がみているなら、その選択はあり得ません。

 言い換えるなら、どのシナリオであるにせよ、北朝鮮と同レベルで挑発的とさえいえるトランプ氏の発言は、実際に北朝鮮を攻撃するという意図と異なる次元で発せられたものとみられます。だとすれば、トランプ政権が最終的に「体制の転換」を目指すかはさておき、少なくとも現状において米軍が北朝鮮と正面から衝突する、あるいは北朝鮮に先制攻撃するという選択肢はないとみてよいでしょう。

 ただし、それが北朝鮮以外の国にまで緊張を高めていることは、冒頭に述べた通りです。その意味で、現状において必要以上に「言葉の戦争」を繰り広げることには、米朝対立をさらに本格化させるリスクがあるといえるでしょう。

※Yahoo!ニュースからの転載