北朝鮮と米国の緊張が高まるなか、トランプ大統領は「絶好調」のようです

 8月8日、トランプ大統領は北朝鮮が核開発を続け、米国を威嚇し続けるなら「世界史に類をみない炎と怒り」で報いを受けると発言。これを受けて翌9日、北朝鮮は米軍施設のあるグアム周辺に中距離弾道ミサイルを発射すると発表。

 さらにその翌10日に北朝鮮軍は、中距離弾道ミサイル「火星12」4発を同時に、日本上空を通過して、グアムに向けて発射する計画を8月半ばに金正恩委員長に提出すると発表。この声明のなかで「あの」北朝鮮がトランプ氏を「理性を失っている」と批判しているのが印象的です。

 しかし、それでもトランプ大統領は「炎と怒り」では「言葉に厳しさが足りなかった」と述べ、さらに11日には「軍事的な解決策の態勢は整った」とも発言。米朝間の「言葉の戦争」はエスカレートの一途をたどっています。

炎上の背景にあるもの

 トランプ氏の言動は、これまでにも物議をかもしてきましたが、「炎と怒り」に関しては60名以上の議員が連名でティラーソン国務長官にあてて「慎重な対応」を求める書簡を出すなど、米国内でも懸念の声があります。また、米朝対立の巻き添えを恐れて、中国においてさえ中立を求める声が出ていることも、その影響の大きさを物語ります。

 とはいえ、「これ以上やるなら本気で潰すぞ」という威嚇は非常に分かりやすいですが、それは北朝鮮のやり方とほとんど同じであるばかりか、仮にトランプ氏が外交オンチであったとしても、それを言うだけで北朝鮮政府が止まるはずがないことが分からないとは思えません

 実際、いくら米軍の方が圧倒的に大きな戦力をもつとはいえ、核報復力を備えるに至った北朝鮮と本気でやり合うつもりなら、ツイッターで「準備ができた」とつぶやきながらもグアムの住民を含む米国民に警戒を促さないことは、トランプ氏といえども無責任の誹りを免れません。それは「歴史上最低の大統領」の汚名を自ら被るものです。

 以上に鑑みると、トランプ氏はむしろ北朝鮮を挑発し、そのミサイル発射を煽っているようにもみえます

 だとすると、それはなぜでしょうか。

内政の延長としての外交・安全保障

 トランプ大統領があえて北朝鮮を挑発しているとすれば、そこには3つのシナリオが考えられます。第一に、国内政治の影響です

 CNNの調査では、「ロシアゲート」などもあり、トランプ大統領の支持率は8月段階で38パーセントにまで急速に低下。同時期に行われたロイターの調査によると、トランプ氏に投票した人の8人に1人が「今なら投票しない」と答えています。さらに、大統領選挙の公約であった「オバマケア」の見直しをめぐっては、共和党が多数を占める上院とも対立。そのうえ、「身内」であるはずのホワイトハウスや政府関係者との不和も絶えず、高官が相次いで辞任・罷免される状況が続いています

 この状況下、トランプ氏にとって北朝鮮は、国内政治の文脈において、これ以上ない好材料ともいえます

 北朝鮮が米本土に届く弾道ミサイルをもつに至ったことで、米市民の間では警戒感が高まっています。8月9日に発表されたCNNの世論調査によると、米国人の62パーセントが北朝鮮を「脅威」と認識しており、軍事行動を支持するひとは55パーセントにのぼり、これはかつてない高い水準にあります。特に共和党支持者の間では、74パーセントが北朝鮮への軍事行動を支持しています

 歴史上、戦争や外敵を理由に国内の対立を克服し、安定的な政権基盤を築いた指導者は多く、就任直後に低支持率にあえいでいたブッシュ大統領が9.11と対テロ戦争をきっかけに支持率をV字回復させたことは、その象徴です。この観点からみれば、実際に北朝鮮が米国にとっての脅威であるとしても、あるいはそうであるからこそ尚更、公約に掲げていた国内の経済、社会改革がほとんど進まないことの苛立ちを募らせるトランプ氏が北朝鮮問題を支持回復のカードとみたとしても、不思議ではありません

 クラウゼヴィッツが著した『戦争論』のなかに、「戦争は政治におけるとは異なる手段をもってする政治の継続に他ならない」という有名な一節があります。この文脈において、クラウゼヴィッツは「政治」を主に外交や国際政治という意味で捉えています。しかし、「政治」から「内政」を排除しなければならない理由はありません。それは米国だけでなく、核・ミサイル開発で米国を恫喝することで国内の不満を慰撫し、体制の存続を図る北朝鮮に関しても同様といえます。