ヒアリ(環境省提供)

 6月13日、兵庫県尼崎市において、中国・広州から船便で運ばれてきたコンテナから猛毒アリ「ヒアリ」のコロニーが発見され、日本全国に衝撃が走りました。その後、東京や神奈川などといった大型国際港でも発見されたとのニュースを受け、テレビ等で刺されたら死に至るケースなどが紹介され、不安な気持ちになったという人もいるでしょう。

 あらためて今回のヒアリ騒動の経緯を整理し、現在行われている駆除や今後の対策、ヒアリが私たちの生活エリアに侵入してきた場合どうすればいいのかなど今、知っておきたい“ヒアリ対策最前線”を国立環境研究所・生態リスク評価・対策研究室長の五箇公一さんが解説します。

【連載】終わりなき外来種の侵入との闘い

ヒアリ騒動の経緯

 ここ最近、危険な外来アリが日本に上陸したというニュースが相次ぎ、大きな騒動となっている。きっかけは神戸で見つかった外来種ヒアリ。英語でFire antと書くこのアリは南米原産で、近年、アジア太平洋地域でその分布を広げており、世界的にも侵入が警戒されている種である。

 巨大なコロニーを形成し、巣に近づくものには相手構わず大量の働き蟻が襲いかかり、強力な毒針で刺してくる。人間も刺されると強烈な痛みが走り、刺された部位が腫れ上がり、痛みと痒みが長期間襲ってくる。

 そしてこの毒に対してアレルギーがある人の場合、刺されて20分以内にじん麻疹や動悸、呼吸困難といった全身症状が発症し、放置すれば最悪死に至る、いわゆるアナフィラキシー・ショックを引き起こす。

 本種は2005年までには、台湾および中国南部でも侵入が確認されており、いずれ日本に上陸するのも時間の問題と多くの研究者が警鐘を鳴らしていた。そしてそれが現実となった。2017年5月26日神戸市で中国からのタンカーで運ばれてきたコンテナの中から、このヒアリが集団で発見された。コンテナ内のヒアリはその後速やかに薬剤によって駆除されたが、コンテナが一時的に保管されていた港のストックヤード内を緊急調査した結果、ここでもヒアリ集団が発見されてしまった。

 さらに驚いたことに、同じストックヤード内でヒアリ以外の外来アリ集団も見つかった。それがアカカミアリという毒アリであった。この種は中南米原産で、東南アジアやアフリカで侵入・分布が確認されている。ヒアリ同様におしりに毒針をもっており、やはりアナフィラキシー・ショックを注意しなくてはならない。

アカカミアリ(アントルーム・島田拓氏提供)

 日本本土初のヒアリおよびアカカミアリの上陸という事態に環境省も自治体も慌てふためいた。神戸市では緊急の対策会議が開催され筆者も有識者として召喚された。まずは発見されたコンテナヤード周辺のモニタリングを強化するとともに、街全体の監視を定期的に行い、侵入・分布拡大が起こっていないかを確認することとした。その時点で収集された情報および筆者自身が視察した限り、まだヒアリもアカカミアリも営巣して、数を増やしているという状況にはないものと考えられ、少なくとも今回の上陸発見に関しては速やかに駆除が成功したものと考えられた。

 しかし、この事態は神戸に限ったことではないだろうと、その時点で筆者は考えていた。というのも、昨年まで実施した外来種対策研究プロジェクトの中で、すでにヒアリの侵入予測をしていたのだが、ヒアリが生息するエリアからのコンテナ輸入量をパラメータとして日本各地の港湾施設における侵入リスクを評価した結果、東京、横浜、名古屋、大阪、神戸、福岡、といった大型国際港が(当たり前の結果ではあるが)軒並み高いランキングに入ることが示されたのである。つまり神戸で起こったことは、これらの港でも必ず起こると予測できたのである。

 案の定、程なくして他の港でもヒアリが続々と発見された。6月27日名古屋港7月4日大阪港、7月6日東京港、7月14日横浜港、そして7月21日博多港でヒアリ個体もしくは集団が発見され、予測はほぼ全て的中した形となった。また7月10日には愛知県春日井市の電化製品メーカーの倉庫敷地内でヒアリ個体が確認され、港から内陸部にもヒアリが運ばれていることが明らかとなった。

 すっかりヒアリばかりが注目されがちになってしまったが、神戸港でヒアリとともに発見された毒アリ・アカカミアリも、6月23日に大阪港で、7月9日に名古屋港で発見されており、さらに7月12日には、茨城県の常陸太田市という内陸部に運ばれて来たコンテナ内で生きた個体が確認されている。

日本政府のヒアリ対策

ヒアリ生息域からのコンテナ輸入数とヒアリ発見記録(明らかに輸入数の多い港で侵入が確認されている)

 いずれの毒アリ発見事例も速やかに殺虫剤による駆除が行われ、それ以上の分布拡大は防げていると判断されるが、こうも短い期間に次々と危険外来アリの上陸が確認されたことで、環境省および全国の自治体は、次はどこに出て来るかと戦々恐々となった。というのも輸入コンテナは、港で陸揚げされた後、すぐに国内の様々な倉庫へと陸送されるので、ヒアリがコンテナから降りるのは、何も港内だけとは限らないからである。

 まずは港湾エリア内でのヒアリ類の防除を徹底すべきと、国交省はヒアリの生息国又は地域との定期コンテナ航路を有する全国の68港湾に対して、ベイト剤と言われる殺虫成分を含む餌剤を絨毯爆弾的に設置する方針を7月12日に発表した。

 しかし、この方針に対してはすぐに筆者を含む生態学者から反対の意見が出されて、方針の見直しを行うこととなった。反対意見として、まずベイト剤とは、殺虫剤入りの餌を働きアリに巣に運ばせて巣内の幼虫や女王に摂食させることで、巣内の生産を抑制し、最終的に巣を崩壊させるという作用性で効果を示す剤である。従って、巣が見つかってもいないところで使用してもその薬効は期待できない。

 また、ランダムにベイト剤をばら撒けば、侵入して間もない少数集団のヒアリが餌剤に食いつく前に、そのエリアに生息する在来アリ類や地表徘徊動物たちが先に餌剤を摂食してしまい、それら在来種が減ってしまうことで、エリア内の生態系が砂漠化してしまう恐れもある。

 港湾エリアなんて人工的に造成された土地であり、そこに住む昆虫なんていなくなっても構わないではないかと思う向きもあるかと思うが、外来種の侵入に対する生態的抵抗力として日本のアリ類の存在は重要な意味を持つ。上陸して来た新参者かつ少数派である外来アリに対して、在来アリが攻撃を仕掛けることで、その繁殖を阻害する効果が期待される。実際に海外では、在来アリ相が豊富なエリアの方が外来アリの侵入が起こりにくいという検証データも報告されている。従って、薬剤の無差別な設置は、生態的な空洞化をもたらし、むしろ外来種に付け入る隙を与え、侵入・定着を促してしまうことにもなりかねないのである。

 もちろん、ヒアリは強い増殖力と毒針をもっており、闘争状態が続けば最終的には在来種が負けてしまう可能性は高い。しかし、闘争によって繁殖・定着までに時間がかかれば、人間による防除にも余裕ができる。

 また使用する薬剤自体は環境毒性が高い物質であり、むやみに環境中に放出すれば、当然、残留など環境影響も懸念される。薬剤は適正に使用すべきアイテムであり、ベイト剤の使用については、まず綿密にモニタリングを行い、ヒアリ類の存在を確認することが前提となる。

 現在、環境省では、無差別・絨毯爆弾方式の薬剤処理は撤回し、まず港湾およびその周辺エリアにおいて目視および粘着トラップによるアリ類調査を徹底することとし、これまでに存在が確認されたエリアについてはベイト剤もあわせて設置し、繁殖を予防するという方針に切り替えている。国交省もまた港湾に加え空港についても周辺地域におけるアリ類調査の徹底を指導している。

ヒアリは日本で増えるのか?

 そもそもヒアリは日本に定着できるのか? 増えるのか? という点が気になる。今回わずか2カ月の間に次々と港からヒアリが発見されたことから、実は前々からヒアリは海外から持ち込まれており、今回たまたま神戸での発見を皮切りに、注意する目が増えたことで発見が相次いだのではないかという意見もある。だとすれば、彼らは何回も国内への侵入を試みているが、日本の環境が彼らには適しておらず、分布拡大には至っていないのかもしれない。

 しかし、これはあくまでも希望的観測であり、より危険側に立って予測すれば、彼らが上陸を始めたのは、あるいはその持ち込み数が増えたのは、やはりここ数年の出来事であり、背景には中国におけるヒアリの急増があるかもしれない。だとすれば今後彼らが国内に分布を広げていくチャンスはますます増大するものと考えなければならない。

 ヒアリは熱帯〜亜熱帯域の気温が高いエリアに生息する種とされるが、実際には巣穴さえ確保できれば地中奥深くに身をひそめることで日本の冬は乗り切れると予測される。特に横浜港では、港内のアスファルトの割れ目で営巣していたかもしれないと思われるほどたくさんの働きアリと卵・幼虫・蛹が発見されており、このことは、必ずしも広い土地がなくても、彼らは街中のコンクリートやアスファルトの隙間を活用して巣を広げることができることを示唆している。つまり彼らは都会のジャングルでも十分に生きていける能力をもち、電化製品や下水などの都市インフラの熱源を利用して、かなり緯度の高いエリアでも分布を広げる可能性を秘めている。

 実際に亜熱帯域原産のセアカゴケグモは、1995年に大阪で侵入が発見されて以降、分布を広げ続け、現在では東北や北陸にまで生息が確認されている。すでに日本の環境は人間の手によって大きく改変されており、そうした環境異変の中で、外来生物は予想外の広がりを見せることがある。したがって、ヒアリについても日本各地で十分な警戒態勢をとっておく必要がある。