日本の言論NPOと韓国の民間シンクタンク・東アジア研究院が毎年行っている日韓共同世論調査の結果が7月21日に発表された。新聞やテレビでは慰安婦問題に関する日韓合意に関する設問に焦点を当てたニュースが多かった。

 ただ率直に言えば、慰安婦問題については「そんなものだろう」と納得する程度の結果でしかなかった。言論NPOに依頼されてネットの解説動画に出演した私は事前にデータを見たのだが、関心をひかれたのはむしろ、北朝鮮の核問題に関する質問への回答だった。

際立つ「核問題解決へのあきらめ」

 北朝鮮関連の調査結果を詳しく見ていこう。

 まずは「北朝鮮の核兵器開発問題は解決するのか」という質問である。日本側では「2年後には」「5年後には」「10年後には」という期限を分けた「解決すると思う」という答が合計で7.4%だった。韓国側は合計28.7%で、内訳を見ると「2年後」1.3%、「5年後」7.7%、「10年後」19.7%だ。日韓双方で圧倒的に多かったのが「解決は難しいと思う」という悲観的な見方で、日本68.9%、韓国71.3%に上った。

 専門家の間では、北朝鮮に核開発を断念させるのは至難の業だという見方が常識になっている。北朝鮮の金正恩委員長は核開発の理由として「リビアの教訓」を挙げる。米英との交渉で核放棄に応じた8年後、欧米の後押しを受けた反政府勢力に政権を打倒され、殺害されたカダフィ大佐のようになるわけにはいかない、という主張だ。

 米国の情報機関を統括するクラッパー国家情報長官(当時)はオバマ政権末期の昨年10月、「おそらく北朝鮮を非核化しようという試みに見込みはない」と公開の場で述べた。クラッパー氏は、北朝鮮が「(核兵器を)生き残りのチケット」だと考えているから、現実的には核能力に上限を設けることに応じさせる政策への転換が必要だと指摘した。「リビアの教訓」という北朝鮮の理屈をベースに置いた考え方だ。この発言が出た時には「なぜ公の場で言ってしまったのか」と驚かれたが、内容を疑問視する声はほとんどなかった。

 日本の場合、北朝鮮の核.ミサイル開発の脅威と言われても実感などなかったのに、急に騒がれるようになったことへの戸惑いがありそうだ。1998年に北朝鮮の発射したテポドン・ミサイルが日本列島上空を通過したことで突然、大騒ぎになったことに通じるものだ。ふだん何も考えていなかったところへ、「米軍は攻撃するだろう」「戦争になるかもしれない」などと語る「専門家」がメディアに登場したのを見て不安になった人が少なくない。

 「起こらない」と言い切るには根拠がなければいけない気がするし、そもそも米軍の最高指揮官はトランプ氏である。果たして常識が通じるのだろうかと迷ってしまうという意識が「わからない」の多さに示されているのではないか。私は同じことを聞かれれば「米軍に先制攻撃ができるとは考えられない」と言い切るが、それでも「トランプ氏だから迷いは残る。まさかとは思うけれど…」と付け加えざるを得ないのである。

トランプ氏の「予測不能性」を恐れる韓国社会

 日本側の結果は、一部の無責任なメディアにあおられた人が多かったという残念な点はあるが理解できるものだった。意外だったのは、韓国でも「起こると思う」が4割近かったことだ。もちろん「起こらないと思う」と答えた人の方が多いので、日本より落ち着いているのだが、それでも意外な数字だった。

 以前にも紹介したが、近年の韓国で北朝鮮の脅威を実感することは「ない」と断言できるほどだ。2002年のサッカー・ワールドカップ(W杯)で韓国が出場した3位決定戦の日には黄海上で南北海軍が衝突し、韓国軍に4人の戦死者が出た。それでもW杯の試合は予定通り行われ、ソウル市庁前の広場には数万人の市民が街頭応援で集まった。2010年には韓国軍哨戒艦「天安」沈没、延坪島砲撃といった軍事衝突が起きて韓国側に人命被害が出ているが、この時も韓国世論が大きく動揺したわけではない。

 私は今年4月、米空母の派遣で緊張が高まっている時期にソウルへ行ったが、人々の言動から危機感を感じることはなかった。テレビでは「日本では戦争になるのではないかと危機意識が高まっている」というニュースが流れており、日本は騒ぎ過ぎではないのかと多くの韓国人に聴かれたほどだ。そうした感覚は、ソウルに常駐している記者でも変わらなかったようだ。ソウル駐在30年以上の名物記者である産経新聞の黒田勝弘ソウル駐在客員論説委員は同紙のコラムに「いつもそうだが肝心の韓国社会にはことさら緊張感も危機感も感じられない」と書いていた。

 黒田氏の見解は、専門家の間で極めて一般的なものであり、私も完全に同意する。だから、韓国でも4割近い人が米軍の先制攻撃を「起こりうる」と考えているという調査結果は驚きだった。解説動画で一緒だった西野純也慶応大教授と私は結局、「トランプ氏は何をするか分からない」という意識が強く作用したのだろうという見解で一致したのだった。