北米最大級のアニメイベント「アニメ・エキスポ」(AX)が今年も7月1日から4日間、ロサンゼルスで開催された。26回目を迎えた。日本のアニメやゲームを中心としたイベントになっているが、その現状はどうなっているのか?ロサンゼルスで日本発のコンテンツや文化を米国市場に発信し続けるメディア・プランナーで情報誌「JANIME」「POPJNEO」の編集長の市村恭一氏がいち早く報告する。

市村恭一

アニメエキスポの遍歴。日本コンテンツはアメリカで2度死ぬのか


7月1日。暑さが高まる季節に様々なアニメ、ゲーム、漫画、ネット漫画、ビジュアル系バンド…思い思いの〝オタクグッズ〟を身にまとい、入場券受付の行列が何キロも会場周辺の道路を取り巻く。受付が終わりパスを手に入れた者、またはパスの購入をあきらめている者は会場前の広場で気の合う〝オタク仲間〟の輪に集う。

ここは日本ではない。アメリカ西海岸カリフォルニア州はロサンゼルスのダウンタウンに位置する世界屈指のビジネス・ショーの拠点「ロサンゼルス・コンベンション・センター」である。ここで開催される〝オタク・イベント〟が「アニメ・エキスポ」、通称「AX」だ。

1日に10万人を越える人が訪れ、開催期間の4日間には延べ人数35万人を超える集客力を持つ。会場と道路を隔てたケータリング・トラック・ビレッジでは今年も腹を空かせたオタク達が、ライスバーガー、Sushiブリトーやカレーなどに舌鼓を打つ。

これらのコンベンションには数千人から数十万人のファンが来場し、全米におけるその総数はコアなマニアだけでも200万人、周辺のライトなファンを加えると1000万人を下回らないと言われている。

メディアとして成長する〝コミケ〟

東京ビッグサイトで開催されている〝コミケ〟は日本の有名な〝オタク・イベント〟である。年に2回、夏コミ、冬コミと呼ばれ、オタクの殿堂、マニアの集会、レイヤーの聖地など様々なイメージがあると思うが、そもそもは「コミックマーケット」というファンの集いの総称が語源である。

主力商品は同人誌と呼ばれるアマチュア作家の自家製本、自費出版の漫画誌。それらの作品から派生したフィギュアやレアアイテムとされるアニメのセル画などを購入する為の「マニアの集い」であった。

市村恭一

同人誌とはアマチュア作家がメジャー漫画やアニメの登場人物をパロディし、ストーリーを創造した作品が多く、有名キャラクター達の日常生活を妄想したものや、脇役の登場人物が恋愛したり、ヒーロー同士が同性愛に目覚めたり、中には敵味方でセックスを始めるストーリーなども存在する。

もちろん完全にオリジナルキャラクター、ストーリーの作品もあり、中にはコミケの同人作家からメジャー誌にデビューしたプロの漫画家も少なくは無い。

お気づきの方もいるだろうが、ここに版権所有者の為の収益構造はほぼ存在していない。〝ファン〟という大きな集まりにプロモーション効果を期待して近寄るメーカーや代理店はあったが、70年代後半のコミケ発祥当時、本腰を入れこのコミケで商業を行う企業は無かった。

しかし現在、コミケは確固たるビジネスモデルも構築され多くの企業が参入し、大手テレビ局、大手代理店も避けては通れない〝メディア〟として成長している。
その成長した様はここに書かなくてもご存じであろう。

「AX」のコアファンは200万人

ここで「AX」の名で有名なアニメエキスポを筆頭に、アメリカにおける「日本系アニメ・コンベンション」とはどのようなモノなのか?ちょっと説明しておきたい。

そもそもコンベンションとはBtoBの商用イベントであり、主催や出店企業と一般コンシューマーの接点はあまりない。しかし、日本系アニメのコンベンションに限っては、そのビジネススタイルはBtoCであり、大きなアニメ・コンベンションはアメリカ国内だけでも1年間におよそ150会場をくだらない。

名称も「Mizucon」「Hoshicon」「Natsucon」「Otakon」といったコンベンションを意味する「Con」や「Kon」に日本っぽい意味合いの言葉を前に足した名称が多く見られる。最近は「AnimeBoston」や「Fandemonlum」などの独特な名称のイベントも増えている。

それら全ての日本系アニメのコンベンション、イベントには数千人から数十万人のファンが来場し、全米におけるそのファンの総数はコアなマニアだけでも200万人、周辺のライトなファンを加えると1000万人をくだらないと言われている。

市村恭一


日本企業のアニメの収益構造は脆弱

漫画やアニメの収益構造を改めて確認しておいたい。日本国内では一般的に漫画の場合は出版社が週刊誌を発行し一次収入を得た後、単行本を発行し二次収益を得ている。

アニメの場合はテレビ放送により企業から代理店を通じて収益があり、DVDやケーブルテレビ、ネット放送などによる収益もある。もちろん漫画もアニメもその他関連物販、版権の販売収益も加算される。つまり、だからこそ日本国内ではコミケにおけるピンポイント的なプロモーションが有効であり、企業が参入する意味合いが見えてくる。

次に、アメリカ国内における漫画、アニメの収益構造を考察してみたい。

漫画は週刊誌による発行はほぼ無く、多くは単行本のみで発行される。日本では漫画単行本の売り上げは週刊誌連載終了と共に急減少することに分かるように週刊誌連載に勝る作品プロモーションは無いと言える。2000年頃より部数を伸ばしていた漫画出版は現在売り場が縮小されネットによる販売で売り上げを繋いでいる。

テレビ放送はどうか。現在、アメリカの地上波における日本アニメの放送はほぼ皆無。多くはネット配信かごくわずかなDVD販売などにおけるライセンス収益しかない。もちろんこれは正規出版、放送、流通の話であり、違法行為による閲覧に対する広告収益などは加味していない。また、物販を流通させるシステムも持ち得ていない。日本から遠く離れたアメリカへ輸出する経費を軽減する日本国政府の助成金さえ無い。つまり、アメリカにおいて日本企業は 漫画、アニメの収益構造に対し脆弱であると言わざるを得ない。

そして、ここがいちばん重要なポイントであるのだが、アメリカで日本企業が主催する日本アニメコンベンションは無い。コンベンションにブースを出店したり、協力、協賛として日本の出版社やテレビ局、アニメ制作会社、その他関連会社が関わる事があっても、主催、オーナーとして関わる日本アニメコンベンションは存在しないのである。理由は簡単で収益構造が無いからである。日本の漫画・アニメ関連会社はアメリカの「オタク」たち(個人消費者)から収益(ドル)を得る方法を持っていないのである。

もちろん、アメリカの企業へ作品使用のライセンス販売による収益はあるが、それ以降の二次収益、関連収益を得る為のビジネスモデルは持ち合わせていない。

つまり、この点が日本よりも「オタク」に対し集客力を持つかもしれないアメリカの「日本系アニメコンベンション」と日本国内における「コミケ」の違いである。