4月13日から10回連載シリーズで開始したコラム「東芝メモリを買ってほしいところ、買ってほしくないところ」も、とうとう最終回を迎えることになった。当初の目的は、「東芝メモリの技術者にとってベストな買収先はどこか?」を示すことにあった。

 しかし、四日市工場でNANDを共同開発し生産している東芝と米ウエスタンデジタル(WD)が、ケンカを始め、それが泥沼のバトルへと発展したため、先が見えない状態になってしまった。

 現時点では、このバトルの着地点が予測できない。したがって10回シリーズ「東芝メモリの技術者にとってベストな買収先はどこか?」の結論を導き出すこともできない。実際、5月19日に第9回目のコラムがアップされて以降、10日間以上、最終回が書けない中途半端な状態が続いていた。

 しかし、中断がこれ以上長引くのは、読者にとっても、編集部にとっても、私にとっても、精神衛生上よろしくない。

 そこで、不本意ではあるが、本稿では以下を述べる。まず東芝とWDが行っているバトルを簡潔に示す。次に、このバトルが長引くとどんな悲惨な結末が待っているかを予測する。さらに、このバトルを横目で見ている同業他社は、どんな動きをしているかを解説する。そして最後に、東芝とWDは、早期に和解してバトルを終結させなければ、東芝も、東芝メモリも、WD(のNAND)も、お先真っ暗であることを明らかにする。

東芝メモリの第2入札

 5月19日に、東芝メモリ売却に関する2次入札が行われた(表1)。

 「東芝メモリの分社化も売却も契約違反」であることを主張するWDは応札せず、東芝と個別交渉することになった。

 2次入札前には、WD、産業革新機構、日本政策投資銀行などと連携すると報道されていた米ファンド、コールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)は単独で応札した。

 韓国のSK Hynixは独禁法に抵触する上、外為法にも違反する。そこで、連携する米ファンドのベインキャピタルが新会社を立ち上げて、そこが東芝メモリを応札することにした。これなら、独禁法も、外為法違反も、関係ない。そして新会社による東芝メモリの買収が完了した後に、新会社とSK Hynixが合弁するという戦略に打って出た。

 中国に工場がある台湾ホンハイは、日本政府に外為法違反で排除されようとしている。そこでホンハイは外為法違反を回避するために、あの手この手を考え出した。

 まず、買収の筆頭会社に、シャープを前面に押し出すことにした。実際、シャープは3000億円程度を出資する。次に、アップルも出資する模様である。つまり、ホンハイはその背後に隠れ、黒子に徹することにした。日米が買収するなら問題ないだろうと考えたわけだ。

 さらにソフトバンクの孫正義氏に、日本政府へのロビー活動を依頼しているという話も聞かれる。その上で米国に、新たにNAND工場を建設すると発表した。米政府、特にトランプ大統領にも、支援をしてもらうためだ。

 通信半導体のファブレス、米ブロードコムも、米ファンドのシルバーレイク・パートナーズが前面に出て応札した。ブロードコムは、その背後に隠れた。そしてこの陣営は、ブロードコムの通信半導体と、東芝メモリのデータセンタ用SSD(NAND)との相乗効果をアピールしている。そして、2次入札の後、4兆円の買収額を用意したことが報道された。

 革新機構、政策銀、経済産業省が参集する日本企業連合の陣営は応札しなかった。一口100億円とする日本企業連合が、富士通と富士フイルムの2社しか集まらなかったからだ。だが、経産省は引き続き日本企業を集めようとしている。また革新機構は、投資資金を確保するために、ルネサス株25%を売却し、約4000億円を確保する予定である。その上で、日本企業連合を10社以上集め、1.8兆円以上を確保できたら、応札する意向である。

 すでに本コラムで指摘したように、この日の丸連合が買収すると東芝メモリの取締役会は烏合の衆となり、大胆な投資判断ができなくなる。その結果、メモリビジネスの息の根を止めてしまうだろう。頼むからこの陣営には引っ込んでいてほしい。

WDと東芝の争いは国際裁判へ

 東芝メモリの売却をよりややこしくしているのが、東芝とWDのバトルである。両社は以下のような泥仕合を展開している。

 WDは4月9日、東芝の取締役会宛に、当初の契約を盾にとって、「NAND事業の分社もその売却も契約違反」とする意見書を提出した。

 東芝は5月3日、WDに対して「東芝側は売却する権利がある」と反論する書簡を送り、5月15日深夜までに入札に関する「妨害行為」を停止しなければ、四日市工場からWDの技術者を閉め出すと警告した。

 WDは米国時間5月14日、東芝のNAND事業売却差し止めを求めて、国際商業会議所(ICC)の国際仲介裁判所に仲裁申立書を提出した。つまり、両社の争いは、とうとう国際裁判沙汰になってきたわけである。

 これを受けて、東芝の綱川社長は5月15日の記者会見で、NAND事業売却について「契約違反ではない」「WDと決裂したわけではない」「(合意時期は)決まっていないが、できるだけ早くしたい」と述べた。そして5月16日には、「問題解決のために協議を継続しており、WDのアクセス制限の判断を保留した」と表明した。