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 「海外需要開拓支援機構(クールジャパン機構、以下、CJ機構)の出資先は意味が分からない。ガバナンスもまったく効いてない」
 CJ機構は2013年におおむね20年間を期限として設置された官民ファンドだ。日本の生活文化の特色を生かした商品やサービスの海外需要を開拓するとともに、海外における日本の魅力を高めることを目的としている。民間投資の呼び水となるリスクマネーを供給することが役割で、これまで計22件の出資を行っている。

 Wedgeでは2016年12月号の特集「クールジャパンの不都合な真実」の中で、CJ機構の出資先についての疑問を呈したが、多くの関係者から冒頭のような声が寄せられた。

買収から1年での減損

 彼らがまず教えてくれたのが、2016年4月、映像制作大手のイマジカ・ロボットホールディングス(以下、イマジカ)が発表した米国子会社ののれんの減損だ。CJ機構とイマジカが日本の顧客に対する、字幕・吹き替えサービスの提供などを目的として、映画やアニメの字幕制作の世界最大手である米SDIメディアの買収を発表したのは2015年2月。住友商事と共同で買収し、買収額は約190億円に及んだ。買収のための特別目的会社への出資比率は、イマジカが50・1%、CJ機構が49・6%、残りは住友商事が出した。ほぼイマジカとCJ機構、2社での買収だった。

 減損額は当初計上したのれんの一部にあたる43億円、イマジカの2017年3月期の経常利益の2倍以上に及んだ。買収から1年でのれんの減損に至ったことについてイマジカは「市場環境の大きな変化や為替相場の変動等による急な業績悪化が要因」(広報)とする。

 しかし、「リーマンショックが起こったわけでもないのに1年でここまで大きい減損が起こることは通常ありえない。デューデリジェンス(買収先の事前審査査定)が甘かったのだろう」(投資業界関係者)と厳しい声も聞こえる。


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(出所)クールジャパン機構、イマジカ・ロボットホールディングスのリリース資料をもとにウェッジ作成
(注)イマジカ・ロボットホールディングスのリリースについては一部省略

 一方、CJ機構はイマジカの減損発表と同日、ホームページに「株式会社イマジカ・ロボットホールディングスからのお知らせ」を掲載した(詳細は図参照)。CJ機構にとって、SDI買収への出資額は、これまでの出資案件のなかで2番目に大きい。また、共同出資者であるイマジカは連結業績予想の修正を受け、役員報酬を減額した。にもかかわらず、「お知らせ」にはCJ機構自身はのれんを減損したのかの記載は一切なかった。

 これについて独立系の民間ファンド、ニューホライズンキャピタル(東京都港区)の安東泰志会長兼社長は「共同出資者が減損を発表している場合、減損するにしてもしないにしても、その判断の理由を投資家に説明するのが当たり前。官民ファンドであれば、それを国民が調べれば分かるような状態にしておく必要がある」と当初の開示姿勢についての不備を指摘する。

 CJ機構に減損の有無を質問すると、「2016年3月期決算については、会計方針に基づき、減損処理を行う必要はないと判断した。本決算については、会計監査人から適正であるとの意見を受けている。よって役員報酬等に影響を及ぼす理由はない」と回答がきた。東証一部上場企業の共同出資者が減損し、役員報酬の減額も行なっているのならば、公的資金が入るCJ機構はもっと「慎重に検討し」なくていいのだろうか。

初めてのエグジットの結果

 CJ機構が手掛ける案件で、2017年3月、初めてエグジット(出口)を迎えたのが、バンダイナムコホールディングス(以下、バンダイナムコ)へのアニメコンソーシアムジャパン(以下、ACJ)株式の売却だ。バンダイナムコはCJ機構など共同出資者14社から計21億円で全株式を取得したと発表したが、関係者によるとこのエグジットもうまくいかなかったようだ。

 CJ機構は、2014年12月、「海外における日本アニメファンの更なる拡大を目指すとともに、正規版アニメの配信や関連グッズの流通を通じ、日本アニメ産業の海外市場拡大と発展を支援」することを目的として、正規版日本アニメの海外への動画配信サイトなどを運営していたACJへ出資した。

 しかし、「海外大手企業の相次ぐ配信事業への参入・展開強化により、全世界的に動画配信権の獲得競争が激化するなど、外部環境の急激な変化に直面」(買収したバンダイナムコの広報)。配信事業は設立時の計画を下回るなど苦境が続き、2016年3月期の営業利益は約10億円の赤字となっていた。

 もともとCJ機構は本件に10億円を出資、全株式数の20・6%を所有していたため、今回のバンダイナムコの株式取得にかかった21億円を単純に所有株式数で分ければ、本件のエグジットは約3億2000万円の損失となる。これについてCJ機構に正確な金額を質問したが「株式取得を行うバンダイナムコにおいて開示していない方針と聞いており、弊社もそのルールに従う」と答えは得られなかった。

 「もともと投資の見立てが甘く、バンダイナムコが引き取った形」とアニメ業界の関係者は語る。「CJ機構が出資を発表したころにはネットフリックスやアマゾンプライム・ビデオなど、海外企業の営業担当がアニメクリエイターを回り日本アニメに制作段階から出資していることは分かっていた。海外ウケする新作アニメは資金力のある彼らにどんどん持っていかれ、配信事業が行き詰るのは目に見えていた」。

 なぜこうも疑問点の多い出資が行われているのか。それは「民業補完の原則が忘れられ、ガバナンスが欠けていることに起因する」(明治大学公共政策大学院の田中秀明教授)という。