前編はこちらから:http://www.fsight.jp/articles/-/42340

 ただこれでもって、自衛隊が国際基準の行動ができる部隊になった、と考えるのは早計である。というのは、自衛隊法第95条の2には、さらに「2」(以下「2の2」)という項目があり、これが自衛隊の足かせになりかねないからだ。その「2の2」とは以下である。

2 前項の警護は、合衆国軍隊等から要請があつた場合であつて、防衛大臣が必要と認めるときに限り、自衛官が行うものとする。

 先にも述べたように、国際社会において日本以外の各国軍隊は、「部隊防護」のための「武器の使用」権限は常時与えられており、例えば共同訓練中に急に何かが生起した場合でも、艦長権限で、他国艦艇を防護することができる。ところがこの条文によると、自衛隊が他国軍を「防護」するための前提となる「警護」をするには、(1)「相手国からの要請」があり(2)「防衛大臣が必要と認め」ない限り、任務として成立しないのだ。第95条の2が付加されたことによって一歩前に進んだが、それは制限されたものでしかないと言えよう。

当たり前のこと

 まず(1)についてだが、例えば共同訓練などを実施する際、「防護のための武器の使用」が常時任務・権限として付与されている他国の艦長たちが、「海自は特別だから、共同訓練中に何かが起きたら大変」と、「訓練」とは別に海自の艦長に「警護」を要請するはずがない。

 したがってこの条文がある限り、もし共同訓練中にテロに遭遇した場合は、海自の艦長だけ「自艦防護」に徹する状況となり、実態としてはこの条文は、米国同時多発テロ後の「キティホーク護衛」のような状況だけにしか適用されないものになってしまっているのだ。

 また今回の「警護」においては、マスコミなどからの「なぜ防衛大臣や防衛省は、命令の事実を公表しないのか」という批判に対し、菅官房長官は「他国との関係がありますから回答は控えさせていただきます」と記者会見で答えていたが、これもこの「2の2」があるからだ。

 つまり、今回の「警護」は、米海軍から「○○地点から○○地点までの間を警護してほしい」と要請があったことになる。それを「公表して良い」と、わざわざテロリストに対して場所を教えるようなことを許可する国など、あるはずがない。基本的に軍の行動は「秘」であり、軽々に発表できないのは当たり前なのである。

「95条の2」も常時発令状態に

 次に(2)についての問題点は、警職法の例で考えてみると分かりやすい。前述したとおり、警職法では、武器使用の条件として「自己若しくは他人に対する防護」というものがあった。しかもこれは、警察官に「常時与えられている任務」である。現場の警察官がいちいち警視総監や道府県警本部長に必要と認めてもらわないと、「他人」、つまり一般市民を「防護」できないということになれば、警察の信頼を損なうどころか、治安を維持することはできないであろう。ところが自衛官は、これができないのである。

 自衛隊法84条には、「領空侵犯に対する措置」というものがある。いわゆる、航空自衛隊のスクランブルに関するものだ。これは条文上、「防衛大臣は、外国の航空機が国際法規又は航空法 (昭和二十七年法律第二百三十一号)その他の法令の規定に違反してわが国の領域の上空に侵入したときは、自衛隊の部隊に対し、これを着陸させ、又はわが国の領域の上空から退去させるため必要な措置を講じさせることができる」となっているが、実際には防衛大臣の命令は常時発令されたままとなっている。だからこそ戦闘機の緊急発進が可能なのだ。

 さらに言えば、自衛隊法95条の「警護」や「防護」も、ある意味、常時発令状態となっている。であるならば、95条の2についても同様にするべきだ、と筆者は考える。

「武器等防護」は「平時」のみの任務

 なぜいちいち要請を待ったり防衛大臣の命令を受けることにせず、常時発令という形にできないのか。それには2つの理由があると考えられる。

 1つは、「米軍の戦争に無制限に巻き込まれて戦闘状態となり、集団的自衛権を行使することになる」という批判に対するものであろう。

 だがこれも、自衛隊に関する法体系への理解不足がある。まず自衛隊法95条の2については、昨年12月に国家安全保障会議が「運用に関する指針」を決定して発表しているが、ここでは条文で「現に戦闘行為が行われている現場で行われるものを除く」ことで、他国軍隊の「武力の行使と一体化」しないことを担保し、戦闘行為に対処することも、武力の行使に当たることもない、としている。

 これは当たり前の話で、要するに「警護」「防護」はあくまで「平時」の任務であり、武器弾薬を奪おうとしたり、装備品や人員に被害を与えようとする「犯罪」「テロ行為」に対処するためのものだからである。だから武器の使用については「警察比例の原則」を適用し、相手に危害を与えてもやむなしとされるのは、「正当防衛」「緊急避難」の時だけに限定されているのだ。

 批判の声の中には、「警護中の米艦艇にミサイルが撃ち込まれたらどうするのだ」というものがある。これも見当違いの議論だ。

 もしミサイルを撃ち込んだのがテロリストだった場合は、そのテロの被害が拡大しないように速やかに対応する必要がある。しかし、ミサイルを使用したとはいえ、テロは基本的には犯罪行為であり、そのテロリストの行動を止めるための行為は、「武器の使用」の範疇で対応する。そしてそれによって米軍の戦争に巻き込まれる、ということは起こり得ない。

 一方、もしそのミサイルが「国又は国に準じる組織」により発射された場合は、これは既に「『武器等防護』の武器の使用」ではなく、「防衛出動」下令後の「武力の行使」の権限を持った海自艦艇が米艦艇等を「警護」している状態、すなわち日本有事かそれに近い状態になっているからだ。具体的には、「武力攻撃事態」か「存立危機事態」が適応されている状態が考えられるが、「事態認定」は総理の専決事項である。

 つまり、こうした「事態認定」するか否かという段階ですでに「平時」ではなく、自衛隊法95条の2の適用範囲外となり、「武器の使用」ではなく、「武力の行使」を前提に他国艦艇を「警護」「防護」している状態なのだ。

 したがって、「平時」の段階で無制限に「武器の使用」がエスカレートすることなどあり得ないのである。