■放射線への「正しい知識」

原発事故のあと、南相馬市では「除染」を行いました。除染とは、放射線に汚染された地域の環境を回復するものです。除染後、市街地の公共施設などには現在の空間放射線量を示す「モニタリングポスト」を設置し、放射線の「見える化」を行いました。

放射線への「恐怖」は、暗闇のオバケにたとえることができます。「見える化」が行われていないと、「オバケがいるかもしれない」と思って、前に進むことができません。しかし「見える化」ができていれば、安心感をもって日々を過ごすことができます。そのためには「正しい知識」も重要です。南相馬市では、有志やNPOを通じて、放射線への正しい知識を身につけるための勉強会を何度も開いてきました。

「見える化」と「正しい知識」によって、それぞれが自らの判断で行動することが大切だと思います。

■育児休暇の取得を推奨

こうした動きを受けて、企業も、人材の流出を防ぐために本腰を入れ始めています。育児と仕事の両立を目的として、労働時間の短縮に努めたり、育児休暇の積極的な取得を進めたりしている企業が、南相馬市でも増えつつあります。

一般的にこれまでは育児休暇を取りづらい雰囲気がありました。しかしそのままでは十分な人材が確保できなくなっています。育児へのサポートの充実は、離職防止に効果があることが伝わるようになってきました。そのため子育てのしやすい職場環境をもつ企業が増えています。いまでは多くの企業で、子供が熱を出した場合でも、躊躇せずに子供を迎えに行くことができる態勢があります。

震災後、子供連れの集える場所や遊び場が、充実してきています。これは「子供を産んでも相談できる人がいない」という悩みの解決になります。こうした保育環境の充実は、民間団体やNPOの支援のおかげです。

■ベテラン保育士の活用がカギ

また、よつば保育園では「病後児保育」に取り組んでいます。これは風邪などで発熱した後、いわゆる「病み上がり」の時期、病後児のために別棟で専用保育を行うものです。残念ながら、「病中」にお預かりすることはできませんが、「病後」に対応することは、感染拡大を防ぐだけでなく、保護者の負担を減らし、安定勤務につながるものだと考えています。

南相馬市では、まだまだ保育のニーズがあります。一日でもはやく待機児童を解消しなければならないと思います。そのためには、保育士の確保と安定雇用が必要です。ひとつの解決策は、ベテランの保育士が安心して働きつづけられる環境整備です。よつば保育園は本人から退職の申し出がないかぎり、定年後も再雇用で働くことのできる環境を整えています。保育園によっては、ベテランの保育士が不足しているため、新卒の保育士が初年度から担任をもつことになり、負担の重さから早期離職してしまうケースが増えているそうです。バランスのとれた人員配置を行うことで、早期離職を防ぎ、人材の定着が図れます。

■「少子化対策」になにが必要か

震災を経験した南相馬市の若い世代、いわゆる「ミレニアル世代」は、安心できる環境があれば子供をもうけたいと考えているようです。その背景には、家族をつくることが社会保障につながる、という考え方もあるようです。世代をこえた「同居」や「近居」も増えています。家族や地域で助け合う。そんな一昔前であれば当たり前だった考え方に、あらためて注目が集まっているようです。

いま日本全国で「少子化」が問題になっています。南相馬市の経験からいえることは、若い世代は「産みたくない」わけではないということです。むしろ「産みたいけど、産めない」と考えている人が少なくありません。周囲がやるべきことは、「産みたくなる『安心スイッチ』をいかに入れるか」だと思います。

産みやすい環境作り → 育てやすい環境作り → 働きやすい環境作り

という三位一体で考えることが重要ではないでしょうか。どれかひとつが欠けても、このサイクルはうまくいきません。南相馬市でできたことは、ほかの自治体でもできるのではないかと思います。

■被災地の正しい情報に理解を

これまで南相馬市に住む私たちは、全国からたくさんの応援をいただいてきました。そうした応援に応えるため、地域の今の姿を、正しく皆さんにお知らせできればと考えました。いまでも不正確な情報をもとに、一部の地域で避難者への偏見、誤解、いじめがあります。ひとりでも多くの方に、被災地の正しい情報を知っていただきたいと思います。

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よつば保育園:福島県南相馬市原町区西町にある私立認可保育園。1989年設立。震災前に約200人いた園児は、震災後20人ほどにまで減ったが、現在は約250人にまで回復。2011年に3歳未満児専用の新しい施設を追加。職員数は約50人。

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(よつば保育園 事務長 近藤 貴之)