中編では「ビジネスとは穴を埋めることである」という思考法を手がかりに、介護業界の改善可能性を語ったファンドマネジャー・藤野英人氏。氏の言葉に一貫して通じているのは「恐れずにリスクを取れ」という果敢な構えだ。後編では、「ヤンキーの虎」「ワクワク・ドキドキ」をキーワードに、これから日本を熱くするための道が示される。

取材・文/佐藤 舜(編集部) 撮影/公家勇人

“ヤンキーの虎“たちのクリエイティブが地方創生の鍵

みんなの介護 地方経済の縮小はいま、大きな問題になっています。なぜ地方は思うように活性化していかないのでしょうか?

藤野 地方経済が行き詰まる原因、それは「リスクを取らないこと」です。詳しく言うと、リスクを取ってビジネスを始めようとする人たちが大都市に吸収されてしまう、そんな仕組みが地方にはあるんです。

例えば、地方銀行。構造的に、地銀はリスクテイクを嫌う職員が集まってきやすくなっているんです。というのも、地方でずば抜けて優秀な人たちは、多くが東大や京大など進学時に県外に行ってしまいますよね。それからリスクテイクを好む起業家肌の人たちも都会へ出て行ってしまう。となると地銀に入るのは、地方のエリートなんだけれどもリスクを取ることが嫌いな、どちらかというと地元でのんびりしていたいタイプの人たちが多くなる、ということなんです。

みんなの介護 「変化しないのがいいことだ」というタイプの人たちが、地方にどんどん残っていく構造になっているんですね。

藤野 そうすると経済的なデメリットも生まれてきます。地銀は財布の紐が固く、なかなかお金を貸そうとしてくれません。何か新しい事業や企業に出資するというリスクに対し、とても臆病なんですね。その貸し渋りのせいで有望な企業がうまく育たず、地方経済を停滞させる要因のひとつになっています。

みんなの介護 そんな地方経済の救世主として、藤野さんは全国各地に点在する“ヤンキーの虎”の存在を指摘しています。“ヤンキーの虎”とはいったい何者なのでしょうか?

藤野 “ヤンキーの虎”というのは、そんな停滞しがちな地方経済の中で、それでもリスクを取ることを選んだ企業家たちのことを指しています。数年前、地方や郊外に住む若者「マイルドヤンキー 」(博報堂の原田曜平氏が定義)の存在が注目されましたが、実際に彼らを雇用して束ねているリーダーがいるぞ、という意味で“ヤンキーの虎”と名づけました。

これまで“ヤンキーの虎”がひとたびビジネスを始めれば、勝つのは容易いことだった。なぜなら、周りにいたのは前述のようなリスクを取らないのんびり屋さんばかりでしたから。

みんなの介護 強いライバルの多い東京で戦うよりずっと楽だったんですね。

藤野 具体的に彼らがどんな人たちかというと、大きく二種類に分けることができます。「地元の名士系」、それと「ヤンキー系」です。前者の「地元の名士系」は地主や土建屋、パチンコ店などの二代目、三代目のような人たちで、親の商売を引き継ぎつつ発展させていったタイプ。

後者の「ヤンキー系」というのは文字通り若い頃はちょっとやんちゃなヤンキーのリーダーだったような人たちで、販売や飲食などの仕事に就いたのち独立し、成功したタイプです。

みんなの介護 そんな“ヤンキーの虎”たちは、どのように地方経済を救うのでしょうか?

藤野 彼らは、余っているモノを使っていかに収益を上げるか、という考え方をするんです。貰った補助金をどう使うか、ではなくてね。素材を繋げ、組み合わせて面白いものをつくっていく、そういう「いまあるものをフル活用しよう」というアプローチが地方には必要なんですよ。

ところがお役所仕事に任せておくと、そうはいきません。例えば地方創生の空き家対策。その後のサービスや活用の仕方をまったく考えないまま、リノベーションの業者さんばかり集めてくるじゃないですか。それで何が起きるかというと、「汚い空き家がきれいな空き家になりましたね」というだけ(笑)。

みんなの介護 本当に重要なのは、そのきれいになった空き家をどう活かすかなのに。

藤野 地方の公務員は「補助金を付ける」「業者に発注する」ことそのものが仕事だと思っている人も多いですからね。地方創生なんて言っても、そういうやっつけ仕事がぐるぐる空回りしているだけのことだったりする。ビジネスそのものを展開したことがない彼らが、衰退していく街の地方創生の担い手になっていることが難点で。

僕が『ヤンキーの虎』を書いたのは、そんな地方創生に対するひとつのアンチテーゼ。お金を回すだけじゃなくて、“ヤンキーの虎”たちのようなクリエイティブが得意な人たちをもっと参加させて、地方という素材そのものを活かしてビジネスとして成り立たせていく必要があるんだよ、ということが言いたかったんです。

地方へ人を呼び寄せるのは「ワクワク・ドキドキ」

みんなの介護 その結果として地方が活性化すれば、首都圏から各地へ適切に人口が分散されるかもしれませんね。介護業界でも現在、首都圏における介護の需要過多が問題視されています。高齢者が多すぎて、介護をする人手が足りないと。

藤野 市場原理でいけば本来、供給が足りない地域の人は供給がある地域へと流れていくはずなんですが。今のところ、まだむしろ田舎から東京へという流れの方が強いんですよね。

みんなの介護 なぜ田舎へ人が流れないのでしょう?

藤野 田舎には、決定的に欠けているものがあるからです。それは何か?ずばり「ワクワク・ドキドキ」ですよ。

みんなの介護 都会の方が刺激的で面白いから、という。

藤野 例えば、僕の生まれである富山県は「住み良さランキング」で常に上位なんです。家も大きいし、ご飯も美味しいし、ウォシュレット設置率も高いとか(笑)、至れり尽くせりです。仕事だって結構あります。けれど、若い人たちの流出は止まらないんですよ。なぜ流出するかというと、ワクワクしないからなんです。住み良さ、という指標の中に「ワクワク・ドキドキ」という項目は入っていないですから。

みんなの介護 具体的に、どんなワクワク・ドキドキが人を集めるのでしょうか?

藤野 やはり芸術的なことや、スポーツ観戦などですよね。その点、新潟には注目です。まずすごいのが、サッカーチーム「アルビレックス」を中心にして遊ぶ場所をつくったこと。そしてもうひとつ、学校をつくることで高卒者の県外流出を防いだ。しかも、そこで教えるのは介護やシステムエンジニアのスキルです。それらを学んでおけば、学校を出た後そのまま地元で仕事にありつけますからね。この「教育」「職場」「遊び場」の3点セットを整えることがすごく重要なんです。

そういう意味で、何かと批判の的になるいわゆる「Fランク」の大学だって、人口を保持するという観点からすれば、ないよりはずっと良いと思いますよ。というのは、今の日本は50%以上の人が大学に入りますから。その50%分の学生を容れるキャパシティが地元になければ、県外へ漏れるに決まっています。そして、一度地方から都市に出てしまうと、その後に地元に戻る人はたったの10%と言われているんですよね。ですから、ここはなんとしてもケアしないと駄目なんです。

みんなの介護 そして残った人には「ワクワク・ドキドキ」を提供し、そのまま地域に留まってもらう。

藤野 サッカーやバスケットボール、バレーボールなどのチームを誘致して、みんなで土日にワーワー楽しく集える場所をつくる。それが地方創生のひとつの軸じゃないかなと思いますね。

みんなの介護 人口問題というシリアスな問題を解決するために、一見、程遠いようなエンターテインメントが重要になったりする。藤野さんは、「投資の面白さは妄想である」と著書にも書かれていますが、そうやってビジネスの連鎖反応を想像していくのは楽しいですね。