■混流生産をしない限り解決はできない

そこで混流生産というやり方が出て来る。マツダで言えばこの8種類のクルマを、車種ごとにまとめることなくすべてラインに流し、ひとつのラインで自由自在に作り分けてしまおうという考え方だ。

自動車の生産は、作業が終わった工程から、次の工程に回すことが連続して行われる、流れ作業の積み重ねだ。当然、前の工程が5分で次の工程が3分、その次の工程は10分……というわけには行かない。そんなことをしたら、流れが詰まったり、工程が遊んだりしてしまう。つまり、前の工程から受け取って次の工程に渡すまでの時間は、ラインの頭から終わりまで、全工程が同じ作業時間でないと流れ作業にならない。この工程時間(タクトタイム)はクルマの基礎設計が違えば全部変わってくる。ある部品を1つ付ければ良いクルマと、4つ付けなくてはいけないクルマがあったとしたら、同じラインには流せない。まずはこのタクトタイムを揃えることだ。

また、作業中にシャシーやエンジンを据え付ける台座の形状一つとっても、車種ごとに異なる。作るものが変われば、ここから変更しなくてはならない。

普通は、基礎設計の違うクルマをひとつのラインに流そうとしても無理なのだ。しかし、もし、デミオからCX-9まで全てのモデルの台座形状を標準化できれば、そして上で述べた様にタクトタイムを統一できれば、コストは大幅に下がり、多品種少量生産がローコストでできるようになる……。

だから「全車種を縦軸で統一したい」と藤原専務は考えた。藤原専務が考えた通り、後にマツダは混流生産を完全にものにし、現在、マツダではクルマは全て受注順に生産されるようになっている。偶然同じクルマが2台続いて流れてくることはあるが、車種毎にまとめて作ることはしない。生産順序はあくまでも“店でクルマが売れた順”だ。

ただし、それは未来の話である。リーマンショック当時、常識的に考えてそんなことはできると考える人は少なかった。フォードから来たスタッフは話を聞いて「全部を同じ部品なんてできるわけがない」と言ったという。藤原専務はこう答えた。「部品の共用化じゃない。同じ製造ラインで作れること、特性を揃えるように考えるんだ」。

■混流生産の原点は、1980年代のマツダの工場にあった

なぜ、そんな突飛な考えに至ったのか? 藤原専務に尋ねてみると、実はこのやり方の一部は、マツダにとって温故知新だったという。「昔のファミリア、カペラ、ルーチェを作っていた時代のマツダの工場では、実は混流生産を行っていたんです。車体を固定する治具台座(じぐだいざ、図)は三面を持ったリボルバー形状になっており、それぞれの面にファミリア、カペラ、ルーチェの車体を固定できるようになっていました」。

この治具を使えば、台座を回転させるだけで3種類のクルマを固定できる。普通ならまずファミリアの予定生産台数を作って、ラインを止め、治具を交換するかセッティングを変えて、カペラを作り……という具合で、度々ラインが止まる。「そうじゃなければ生きていけなかったんです」。お金もない。単一車種でラインをフル稼働できないという制約を跳ね返すために、知恵を絞って回転式の治具を考案したのだ。2010年代の最新技術となる混流生産の萌芽は1982年に山口県の防府工場で誕生したものだった。


1980年代のマツダの工場で使われていた、回転式の三面治具。(提供:マツダ)

生産技術者たちは、このシステムをボディだけでなく、エンジンを組み立てるラインにも援用しようと日夜研究を重ねた。そしてついにそれも完成する。藤原専務は笑って言う。「当時この混流生産について論文にまとめて学会に出したんですが、『何ですかそれは?』と、誰もまともに受け取ってくれませんでした」。

この早すぎた混流生産へのアプローチが、リーマンショック後のマツダの窮地を救った。やむを得ない事情があったにせよ、フォードはマツダを裸一貫で放り出した。その苦境を脱するために、先人達が知恵を絞ったこの混流生産システムが、マツダの奇跡の回復を支えることになったのだ。

■一括企画+混流生産=コモンアーキテクチャー

こうしてコモンアーキテクチャーの全貌がおぼろげながら姿を現す。コモンアーキテクチャーとは設計・生産リソースの共有なので、全ラインナップをまとめて企画する「一括企画」と「フレキシブル生産(混流生産)」でなくてはならない。そして最も重要なことは、全てに適用する設計だからこそ、単一車種のための設計とは違う次元のコストを投入して、最良の性能を目指さなくてはならない。もしマーケットの商品評価が低かったらラインナップ全車が失敗する。つまりマーケットを説得できる性能でなくてはならない。

振り返れば、マツダは“数の原理”を使えない境遇を背景に、多品種少量生産を実現する手法を編み出した。選択肢の無い中で生き残りのために作り上げた“弱者の戦略”が、いま一周回って最先端となっている。

汎用設計というと、専用設計に劣るように聞こえるかもしれないが、実はこの汎用設計こそが低コスト、高信頼性、高性能を支えることになる。次回は藤原専務のインタビューを元に、その詳細をさらに明らかにしていきたい。

(池田 直渡)