選挙戦が事実上始まっている、と報道する英国の各紙(20日付)

「ブレグジット」(英国のEUからの離脱)を控える英国で、6月に総選挙が実施されることになった。メイ首相はこれまで下院の任期が終了する2020年までは「総選挙はない」と繰り返し述べてきた。

なぜ急に「Uターン」をしたのだろう?その理由はたった一つの言葉で表現できる。英タイムズ紙のコラムニスト、ダニエル・フィンケルスタイン氏によれば、「労働党(レイバー)」だ(19日付)。つまり、最大野党の労働党があまりにも弱体化しており、与党・保守党にとっては、「今が絶好の時」となったというのである。

「与党の一人勝ち」日本と酷似する英国の政治状況

白髪にひげ、頭にはサイクリング用ヘルメット、ネクタイは締めず、ズボンの裾を靴下に突っ込んで自転車にまたがる男―これが現在の労働党党首ジェレミー・コービン氏だ。

普通の初老の男性といった風情のコービン氏だが、大部分の労働党議員の間では人気がない。コービン氏では選挙に勝てない、というのがその理由だ。勝てなかったら、どんなに優れた政策があっても意味がないからだ。

当たらないと言われている世論調査だが、どの世論調査を見ても、コービン氏が率いる労働党はメイ首相の保守党に21ポイントの差を付けられている。逆立ちしても、この差を埋めるのは無理だろう。

最大野党がこの体たらくで、ほかに政権交代を可能にする単独政権は今のところ、皆無。例えば現在保守党は下院(定数650)で330議席を保持。労働党は229、これにスコットランド国民党(54)、自由民主党(9)が続く。労働党を除くと、ほかの政党は一挙に小粒になる。

野党勢力の弱体化で与党の一人勝ち状態――英国の政治は日本の政治の現況に酷似している。いったいなぜ、英国では最大野党労働党がこれほど弱くなったのか?一言で言えば、「これまでの労働党支持者が党を支持しないようになった」からだ。

なぜ労働党は支持を失ったのか?

労働党の発祥をさかのぼると、労働者を守る組織「労働代表委員会」が立ち上げられたのは1900年。06年からは「労働党」という名称となり、労働者の生活向上を主眼にして活動を続けてきた。

第2次世界大戦後、英国の高福祉制度を構築したのはアトリー労働党政権。「ゆりかごから墓場まで」という表現は日本でも有名だ。

方向性を変えていったのは1990年代半ばだ。サッチャー保守党政権が続く中で、労働党内の若手が「ニューレイバー(新労働党)」運動を始める。それまでの極端な左派政策を捨て、市場主義を重視しながらも福祉政策も充実させる「第3の道」を提唱した。この時点で、保守党と労働党の政策はやや似たものになってゆく。旧来の労働党支持者が党を離れる遠因も作ってゆくのだが、選挙に勝てば党への不満はそれほど大きなものにはならなかった。

ブレア労働党政権(1997-2007年)が誕生するまで、労働党は18年間、在野を強いられた。「2度と野党にはならない」という強い思いの下、労働党政権は2010年まで続いた(2007-10年はブラウン政権)。

2010年の選挙に負けたブラウン氏の後を引き継いで党首になったのは、左派系で労組の後押しがあったエド・ミリバンド氏(元エネルギー・気候変動大臣)だった。「ニュー・レイバーでなければ選挙に勝てない」というマントラの下で押さえつけられてきた党内左派の声を反映したものだったと言えよう。

2015年選挙で労働党が大敗

2015年の総選挙では、ドラマチックな結末が待っていた。

5年前から保守党と連立政権を担っていた自由民主党は、前回の選挙では大学の学費をゼロにするとマニフェストで確約していた。しかし、保守党がこれに同意せず学費の有料化が維持されたばかりか、増額となった。若者層を中心に「嘘をついた」と大きな批判の渦が広がった。

「政権に参加するために、党のマニフェストを裏切った」とされた自民党は大きく議席数を減らす。何と、57議席からたったの8議席に減少してしまった。現役閣僚も次々と落選した。ここで第2野党としての自由民主党は吹けば飛ぶような存在になってゆく。

第1野党の労働党は232議席で26議席減少。第1党となった保守党は24議席増加で331議席となり、100議席近い差が付いた。

労働党と自民党が大きくその地位を後退させたのはスコットランド地方。全59議席のうち、50議席をスコットランド国民党が獲得。スコットランドの英国からの独立を主張する政党だ。前回の6議席から大躍進を遂げた。前回まではスコットランドで41議席を持ち第1党だった労働党は40議席を失い、1議席のみ。前回11議席の自民党も1議席のみになった。以前から影が薄い保守党は前回同様、1議席を維持した。

労働党がかつて第1党だったスコットランドでほぼ姿を消してしまったことが、党の没落の象徴となった。この時点で、もはや労働党は「労働者=自分=を代表する政党」とはみなされなくなっていた。「ニューレイバー」とはさっそうとしたスーツを着こなすエリート政治家に代表されるような、労働者の声を代弁しない政党だった。