日本のメディアでは、東芝の決算と半導体部門売却に関する報道が主だが、欧米メディアでは、中国企業によるウエスティングハウス(WH)買収を米国政府が懸念しているとの報道が目立つ。WHが中国企業に売却されないように米国政府は働きかけるが、もし、中国企業による買収が提案されれば、米国財務省管轄の外国投資審査委員会で審査し買収を阻止するとされている。中国企業が陰で参加するコンソーシアムによる買収も防ぐため友好国企業による買収も画策しているとも報道されている。

 中国企業による海外投資・企業買収の動きが活発になるにつれ、国の重要インフラ、あるいは技術を社会体制が異なる国に握られることを懸念する声は、多くの国において高くなっている。その筆頭は豪州だ。2016年に公共インフラの買収については全て外資審査局が審査することを決め、同年8月中国のコンソーシアムによる電力網運営者の買収を、安全保障上問題ありとして阻止した。電力網に中国企業の参加を許したポルトガル、イタリアとは大きな違いだ(『欧州のエネルギーインフラを買い漁る中国』)。

 米国政府が中国企業によるWH買収を懸念する理由は、軍事転用が可能な高度な技術を社会体制が異なる国が保有する安全保障問題にあるが、それだけではなさそうだ。最先端技術を巡る争いにおいて中国企業が米国企業と対立する懸念も当然ある。例えば、米国が開発したIT技術は世界標準になるが、中国だけは例外だ。中国では標準にならない。独自路線を訴求する中国が世界の主流になっているWHの原子力技術を握ると他国が困惑することも起こるだろう。

警戒される中国資本

 中国企業は、欧州では港湾設備、送配電網などのインフラ、不動産、ハイテク企業の買収に関心を示しているが、中国企業の多くが政府系あるいは政府の資金援助を受け相対的に有利な買収条件を提示可能なこともあり、欧州でも中国企業による買収を懸念する声が高まっている(『欧州では爆買いを阻止される中国』)。

 米国では、2012年から2014年に外資審査委員会の対象になった案件368件のうち、中国企業の関与する案件は68件(シェア18%)と国別では一位を占めている。中国企業が関心を示している対象企業は、鉱業・建設・公共事業が19件(シェア28%)、製造業33件(シェア22%)が多い。関心がないのは卸・小売り・輸送の3件(シェア9%)だ。

 いま、中国企業が買収を試みている米国企業で、外資審査委員会による審査が注目を浴びているのはモンタナ州でプラチナ、パナジウムなどの採掘を行っているスティルウォータ・マイニング社だ。南アフリカで金などの採掘を行っている鉱山会社シバニェ・ゴールド社が、昨年12月に当時のスティルウォータの株価に23%のプレミアを付け、総額22億ドル(2400億円)で以て買収することを提案した。

 外資審査委員会は米国の安全保障に影響を及ぼす案件を審査する。対象となる企業を買収する場合には、買収企業は委員会に届け出、審査を受けることが必要になる。2013年2月にオバマ大統領により署名された「重要産業基盤の安全保障と強靭さ」大統領令に16の分野が記載されているが、これらの分野の企業は明らかに対象になると考えられる。その分野には、化学、通信、IT、エネルギー、防衛産業、公共設備、原子炉、輸送システムなどが含まれている。

 スティルウォータの採掘する金属は防衛産業でも使用されるものであり、一方シバニェ・ゴールドの最大株主は中国政府と関係があるコンソーシアムとされている。この買収提案は当然審査対象となった。当初の審査は4月14日までに終了するとされていたが、14日時点での発表は行われておらず、期間が延長されているものと思われる。

米国に対抗し独自の標準を築く中国企業

 欧州、米国が中国企業による買収を警戒するのは、買収により中国に欧米企業が保有する高度技術が流出することだ。既に中国は特許申請数では、図‐1の通り米国を抜き去り世界一になっている。米国第一のトランプ政権は、中国が技術力で米国と肩を並べ、やがて抜去ることを懸念していると想像され、技術流出につながる企業買収には反対する立場だ。


写真を拡大


 外資審査委員会の審査結果を受け、大統領が阻止した中国企業による買収は、オバマ大統領が昨年不許可にしたハイテク企業買収を含め過去3件しかないが、今後は増える可能性が高い。中国企業によるWH買収が申請されれば当然阻止対象となる。

 米国政府が中国への技術流出を懸念するのは、中国企業が米国とは異なる標準を作り出すことも影響しているのだろう。ニーアル・ファーガソン・ハーバード大学教授は米国が作り出したIT革命に中国が対抗した例を挙げている。

 ネット販売のアマゾンがシアトルで設立されたのは1994年、グーグルがカリフォルニア州のガレージで始まったのが1996年、フェイスブックは2004年にハーバード大学で始まった。ユーチューブは2005年、ツイッターは2006年、iphoneが2007年、配車サービスのウーバーが2009年。マイクロソフトもアップルもアメリカ企業だ。

 米国企業が作り出したネット革命に対し、他国は従ったため、他の国でも米国企業が標準になった。日本も例外ではない。しかし、中国は米国企業に対抗する道を選んだ。アリババ、テンセント、百度が作られ、中国の情報は米国企業には渡らなかった。仮に原子力技術が中国に渡り、ITと同様に独自の道を進み情報が開示されなければ、他国にとっては大きな損失になる。