こんな感じで待たせるのは本当に心苦しいけど、待ってて欲しい〉

 川谷はLINEでこんなメッセージをベッキーに送っていた。川谷とベッキーは離婚届のことを〈卒論〉と表現し、その提出を待ちわびるようなやり取りをしていた。

 また、クリスマス後にベッキーは〈素敵なイブとクリスマスをありがとう〉というメッセージを川谷に送っていた。

 こうしたやり取りを見ただけでも二人が親密な関係であるのは明らかだった。しかし、記事にするには本人たちの声が欲しい。そのため、ベッキーと川谷が、川谷の故郷である長崎に行っているという情報を掴んだところで直撃を試みることにした。

 この記事で「カキ」を担当した棚橋は、東京で指揮をとりながら川谷の妻に当たり、他の記者を「アシ」にして長崎へ飛ばすことにした。

一月三日の呼び出し

 二〇一六年一月三日午前八時。

 明け方近くまで友達と酒を飲んでいた女性記者・大山(おおやま)は、眠さと闘いながらもプラン会議に提出する五本の企画をまとめ、デスクにメールする作業を終えていた。プラン会議は毎週木曜に行われる。この日は日曜だったが、正月ならではの変則日程だった。メールを済ませたあとには午後から編集部に行くことになっていたので、短い正月休みだった。

 アルコールを抜くため入浴しようと、風呂(ふろ)にお湯を溜(た)めていたところで携帯電話の呼び出し音が鳴った。携帯の画面を見て、相手がデスクの渡邉庸三(わたなべようぞう)だとわかった。

「おはようございます。あっ、いえ、あけましておめでとうございます」

 ぼうっとしたままの頭で電話に出ると、「大山、いまどこにいる? お前に頼みたい件があるんだけど、早めに会社に来られるか」と聞かれた。少し言葉に詰まりながらも「いま、家なので、できるだけ早く行きます」と答えた。

 心づもりより少しだけ早く正月休みが終わった。風呂に浸(つ)かるのはあきらめて、シャワーだけを浴びて編集部に向かった。