伊藤達也=文

成功しているから説得力があるのか、それとも発言が魅力的だから成功したのか。因果関係はわからないが、名経営者の多くは、卓越した「言語能力」をもつと言えるだろう。世界を動かす3人の「言葉」。そこに潜む共通点を探った──。

データファイル▼ドナルド・トランプ
米大統領(雑誌掲載当時:トランプ・オーガナイゼーションCEO)
【名言】私は物事を大きく考えるのが好きだ(『トランプ自伝』より)
【総資産】4500億円(45億ドル)*
【年齢】70歳(1946年生まれ)
【出身地】ニューヨーク市クイーンズ
【父親】父・フレッドも不動産業を営む
【学歴】ペンシルベニア大学 ウォートン・スクール卒業
【起業まで】大学卒業後、父の会社に入社。25歳のときに経営権を譲られる。
【結婚・家族】3度の結婚をしており、3男2女の子供がいる。現在の妻は元モデルのメラニア。
【尊敬する人物】映画監督に憧れ、映画学科への入学も考えた。憧れはサム・ゴールドウィン、ダリル・ザナックなど。好きな人物はスティーブン・スピルバーグ、リー・アイアコッカなど。
【愛読書】『積極的考え方の力』(ノーマン・ヴィンセント・ピール)、『聖書』
* Forbes The World's Billionaires 2016による。1米ドル=100円で換算。

両者が得をする取引など「戯言」にすぎない

「メキシコからの不法移民は強姦魔だ。私が大統領になったら、メキシコとの国境に万里の長城を築く!」

ドナルド・トランプ氏は政治家としての過激な言動ばかりが注目されているが、これまでの発言を振り返ると、実業家としてのしたたかさも備えていることがわかる。

トランプは自身の強みについて、こう分析している。

――私の取引のやり方は単純明快だ。ねらいを高く定め、求めるものを手に入れるまで、押して押して押しまくる(『トランプ自伝』ちくま文庫)

トランプは不動産会社を経営する父フレッドの第4子として生まれた。ペンシルベニア大学ウォートン・スクール在学中から父の会社を手伝い、1968年に入社。71年には経営権を与えられ、社名を「エリザベス・トランプ・アンド・サン」から「トランプ・オーガナイゼーション」に改めた。

「何かでかいもの、思い切り努力するかいのあるものを建てたいと思った」(『自伝』)。当時25歳のトランプは、ニューヨークの中心、マンハッタンの五番街へ進出する。誰も目をつけなかった土地へのビル建築や、経営難のホテルの再建など、破竹の快進撃をはじめる。ひとつの到達点が83年に落成した「トランプ・タワー」だ。

立地はニューヨーク五番街という超一等地。階数は58階。高級アパートメントとショッピングモール、オフィスエリアを擁する複合ビルで、黄金に輝く全面ガラス張りというデザインには、「景観を損なう」という批判も寄せられた。

「マスコミに盛んにとりあげられたため、トランプ・タワーは人びとの関心を大いに集めることになった。(中略)商売をする上から言うと、何も言われないより悪く言われたほうがまだましだ」(『自伝』)

「悪評も評なり」という彼の考えを知れば、数々の「暴言」も意図的なものだとわかる。

トランプの考え方はシンプルだ。自分を大きくみせて、相手を脅し、徹底的にぶっ潰す。そのための努力は惜しまない。彼の言葉を引こう。

「努力すればするほど、わたしの運は上向く」
「わたしは慢心していないし、慢心した人間とは無縁でいたい」
「最高の人材を雇え。ただし、決して彼らを信用するな」
「相手から利益を得たい場合は、あらかじめ相手に脅しをかけておかなければならない。こちらの要望が通らなければ、そちらにも相応の痛みを感じてもらうぞ、と」
「両者が得をするウィンウィンの取引こそが良い取引であると多くの人は言う。戯言(たわごと)もいいかげんにしてほしい。すばらしい取引とは、あなたが勝つ取引であり、相手が勝つ取引ではない」

最終的な行動原理は快楽主義だ。

――わたしはセックスも好きだが、取引の成功はセックス以上にすばらしい(『でっかく考えて、でっかく儲けろ』)

そして自分のビジネスには徹底的に惚れ込む。所有するビルやホテル、カジノ、ゴルフコースなどの多くに自らの名前を冠するのはその表れだろう。冒頭の「メキシコ国境に壁を作る」という発言には、こんなオマケまでついている。

――トランプ・ウォール。すばらしい壁になるぞ。なぜって、いつか私が死んだら、その壁に私の名前がつけられるからだ(15年9月テキサス州ダラスでの遊説)

世界一の大国の元首となったトランプ。その姿勢にブレはない。

――満足したわたしは、もはやドナルド・トランプではない(『でっかく考えて、でっかく儲けろ』)