最近は「本を買うなら電子書籍」という人も増えてますよね。

読みたいときにすぐ読める、かさばらず保存も楽、メモや検索も簡単と、読み手にとっては「便利なことばかり」の電子書籍ですが、実は出版社にとっては「けっこうやっかいな商品」だったりもします。

読者の中には「紙代も印刷費もかからない電子書籍の価格が紙の本とほぼ同じなのは納得できない」とか、「電子書籍の販売が、紙の本より数日から数週間、遅いことが多いのはなぜ? 同時発売して欲しいのに」といった疑問や不満もあるかと思います。

なので今日は私に分かる範囲で、その理由を書いておきます。

なお今日取り上げるのは、著者が自分で出すセルフパブリッシング(ダイレクト出版)の話ではなく、出版社から紙でも発売される商業出版ベースの書籍の、電子書籍の話です。

1.電子書籍を作るのは紙より面倒

出版社が本を出す場合、まずは中身を作ります。

著者に文章を書いてもらい、著者推敲が終わって目次構造が決まると、

・図や絵が作成され、
・校正、校閲作業が行われ、同時に、
・本の大きさ、文字フォントやページデザインが決まり、
・タイトルを決めて章扉を付けてページ数を確定させ、
・表紙デザインを決める、
といった編集作業が行われます。

ここまでは紙の本だけを作る場合も、電子書籍を併せて出版する場合も同じです。

この後、紙の本だけなら、印刷する紙の種類を決めて、上記原稿のファイルを印刷会社に送れば終わりです。

当然ですが原稿ファイルも、そして印刷 & 製本された本も一種類だけです。

ところがこの本を電子書籍でも出そうと思うと、「一種類の電子ファイル」を作るだけでは済みません。

電子書籍には、様々なフォーマットがあるからです。

キンドルに kobo に Kinoppy に ガラパゴスにソニーに iBooks にと、多くのリーダーが存在してるのは皆様、ご存じのとおり。(ここで挙げた以外にもまだあります)

さらに、これらのリーダーアプリが使われる端末(OS) も iOS に android に windows にと分かれており、加えてそれぞれ異なるバージョンの OS が併用されています。

こういった「めっちゃたくさんある」フォーマットや端末のすべてでトラブル無く読める電子書籍ファイルを同日配信できるように仕上げるのは、「印刷会社に原稿ファイルを送って終わり」の紙の本より、遙かに面倒な作業なんです。

しかも電子書籍ショップの中には、内容審査のためにアップロードから販売開始まで時間が必要なところもあるなど、そのルールもバラバラ。

こうなってくると、個人では不可能なほどに大変な作業であり、私の場合も、自主製作した電子書籍はキンドルだけでしか出していません。

個人ですべてやる場合、数種類のフォーマットで出すのがせいぜいではないでしょうか。

このため最近は、それらの作業を請け負う外注業者がたくさん存在しています。

出版社でも、大手なら電子書籍化を担当する社員を雇っていますが、小さな出版社は外注を使います。

その場合、当然、外注費が発生するし、リードタイムも必要になります。

つまり電子書籍化というのは内製にしろ外注にしろ、けっこうなコスト(時間&コスト)がかかる作業なのです。

結果として資金力の弱い小さな出版社では、「紙で(ある程度)売れた本だけを電子書籍にしよう」と考えます。これが今だに「紙の本しか出ない本」がある理由です。

また、紙の本と電子書籍で数ヶ月のタイムラグがあるのは、「まずは紙の本を売って、資金回収の目処がついたら電子化しよう」と考えていたり、小さな会社の場合は単純に人手が足りなくて、まずは紙の本を作るという仕事を終わらせ、「その後で」電子化に取りかかる、みたいな場合もあるからでしょう。

いずれにせよ電子書籍を作るのは、紙の本を作る(印刷して製本する)より遙かにめんどくさい作業なのです。

2.超面倒な印税支払い

さらに面倒なのが印税の支払い事務です。

紙の本は、「印刷した時」しか著者に印税を払いません。

最初に初版が印刷されると初版印税が支払われ、増刷(重版)になると、増刷した分の印税が支払われます。

重版になる本は 3割ほどと言われているので、大半の本は一度も増刷されません。

つまり出版社が著者に印税を払うのは、「本ができた時だけ」なのです。

また、たとえよく売れて重版される本でも、そのタイミングはせいぜい出版から 1年ほどです。

言い換えると、書籍の 9割以上は、初版出版から 1年もたてば、もう永久に増刷はされません。

だから、数回の増刷がかかる「よく売れた本」であっても、出版者が著者に印税を払うのは、新刊発売から 1年以内、かつ数回だけなのです。