このブログでは食品のリスク情報とその双方向による伝え方(リスクコミュニケーション)について毎回議論しているが、本年も月に1度の理事長雑感を綴っていくので、食の安全・安心に関心のある皆様からのご意見・ご批評などをお寄せいただきたい。2017年最初の本ブログでは、今年も「小池劇場」でその動向が注目されている東京都中央卸売市場の豊洲移転問題について、都民の「食の安全」に関わるリスクコミュニケーションの典型事例であると同時に、風評被害をいかに防止するかがカギとなってくるため、詳しく議論してみたい。

 まずは、昨年12月20日にNPO食品保健科学情報交流協議会(NPO食科協)とSFSSの共催で開催した豊洲市場移転に関する緊急パネル討論会の速報を以下のサイトでご参照いただきたい:

◎緊急パネル討論会『豊洲市場移転に関わる食のリスクコミュニケーション』開催速報
 http://www.nposfss.com/cat9/toyosu_1220.html

 皆様ご存知のとおり、昨年11月には東京都中央卸売市場が築地から豊洲に公式に移転する予定であったところ、いわゆる「盛り土」などの問題が発覚したことで小池都知事が市場移転の延期を発表され、昨年が最後になるはずであった築地での初競りが今年も賑やかに開催された。今月には豊洲市場・環境モニタリングの最終分析結果が公表される予定であり、専門家委員会の評価を経たうえで、今後の市場移転にむけた最終ロードマップが小池都知事より発表されるものと思われる。

 上述の緊急パネル討論会において、朝日新聞科学コーディネーターの高橋真理子氏は、今回の豊洲市場移転問題全体が最初から「政治イシュー」であったとして、30年近くにわたる都政との関わりを交えてこれまでの経緯をご紹介いただいた:

◎『豊洲問題とは何なのか』
 高橋真理子(朝日新聞科学コーディネーター)

 http://www.nposfss.com/data/toyosu1220_takahashi.pdf

 たしかに石原慎太郎都知事の時代から、この中央卸売市場の豊洲移転問題がずっと議論されてきたなかで、豊洲の土壌汚染対策に関する情報開示が十分にできていなかったことに関するガバナンスの問題が、小池都知事の誕生による「情報の透明化」によって浮き彫りになり、東京都の市場担当者の処分にまで発展したことはやむを得ないものと思う。しかし高橋氏もご指摘のとおり、東京都の土壌汚染対策が完了したいま、実際「豊洲は安全なのか」「築地と比較してどうなのか」が都民の食の安全に直接影響する最大関心事なのだが、そこがわからないことが問題だとのことであった。

 高橋氏によると、小池都知事は「食の安全」をキラーワードとして使っているとのことで、豊洲移転延期を決定した際に、都民の「食の安全」に関するリスク評価が完了していないからということを最大の理由として、豊洲のリスク再評価を専門家委員会に指示したのであろう。「盛り土」がなかったことなど、東京都による重要なリスク管理情報が隠蔽されていたことで、おそらくこれまでのリスク評価/リスク管理情報全体が都民から信用されないだろうとして精査しなおす必要があると判断されたのは頷けるところである。また小池都知事の味方をするわけではないが、少なくとも小池さんは「食の安心・安全」とは言及せず、あくまで都民の「食の安全」を重視するとのご見解のようなので、その点は信頼してよさそうだ。
(追記 2017.1.12. https://twitter.com/nposfss_event/status/819324177001824256)

 そこで本問題における重要なポイントは、いまの「豊洲は安全なのか」ということになるが、その点は上述の緊急パネル討論会において、関澤純先生がわかりやすく解説してくださったので、こちらも講演レジュメをご参照いただきたい:

◎『豊洲市場移転に関わる食の安全と健康影響について』
 関澤 純(NPO法人食品保健科学情報交流協議会・理事長)

 http://www.nposfss.com/data/toyosu1220_sekizawa_e.pdf

 関澤先生のご講演において注目すべきは、2008年の段階での豊洲の土壌汚染(ベンゼンやシアン化合物等)がかなり深刻な状況にあったことを、明確な数値として示しておられることで、おそらくこの点が都民が最も不安を感じているリスク情報だからだ。その後、専門家委員会のご助言により東京都が実施した土壌汚染対策工事が完了した2014年には、深刻だった土壌汚染の有害物質濃度が約1万分の1程度に下がり、安全性上問題のない環境基準に近いところまでリスク低減化に成功したことが示された。関澤先生によると、有害物質濃度が環境基準をわずかに上回った地下水であっても、そのまま2Lを毎日飲み続けたとしても人体への健康影響が出ない程度のリスクになるとのこと。環境基準値自体があくまで理想的な社会環境を維持するための管理基準であって、安全領域にかなり厳しめの低濃度を設定していることがわかる。