前回『AV出演を強要された彼女たち』の著者であり、フリー・ソーシャルワーカー・宮本節子氏のもとに「AV出演強要」問題を発端を聞くために取材に向かった中村淳彦氏。後編です。

90年代AV強要は当たり前だった

 ネットが一般化する90年代以前のAV業界は、騙したり脅したりして出演させる「出演強要」は、間違いなく常態化していた。当時、AV女優は極めて不人気で供給が足りなかったことが理由だ。被害にあう女性があまりに多すぎ、騙されて出演することは半ば公然となっていた。

 2000年前後から自ら出演したいと応募してくる女性がポツリポツリと現れはじめ、アダルトメディアの需要減少と一般社会の雇用崩壊なども重なって、2004年あたりを境に需要と供給が逆転する。AV女優は誰でもなれる職業ではなくなり、スタート地点に立つまでに競争が起こるようになったのだ。その中で騙したり脅したりする出演強要は実際に劇的に減った。

 この10年間は、自分の意志に反して出演するAV女優は、AV業界で普通に仕事をしている限りほとんど見ない。自然現象的に起こったAV業界の健全化は10年以上かかわる関係者の間では共通認識になっており、ほぼ全員に似たような肌感覚はあるはずだ。

 しかし、宮本氏の著書『AV出演を強要された彼女たち』(ちくま新書)には強引なスカウトや契約書管理、脅しや違約金の請求の実態が面々と記される。2016年3月のHRNの報告書発表以降、出演強要は社会問題になり、AV女優当事者による告発も続いた。

かつてのような出演強要の悪習は、現在でも主に単体女優の世界で残っていたことになる。上位5パーセントのAV女優トップ層に対して、男性視聴者やAVメーカーの要求水準は高く、応募でその水準の女性を見つけるのは至難の業だ。そこで強引な人材獲得、契約書で拘束する契約書管理は継続されていたことになる。

人間の哲学がテクノロジーに追いつかない

――タレントになれる芸能人になれるなど、甘言による強引なスカウトによって意に反して出演し、違約金を請求される契約書によって後に引くことができないケースが書かれていました。プロダクションやスカウトによる人材獲得、人材管理方法が問題なのでしょうか。

宮本 スカウトや誇大な求人広告によってAVのシステムに組み込まれるのはキッカケであって、最終的な問題は映像として残り続けることです。そのことによって女性は傷つき、立ち直れなくなる。

――AVメーカーは映像を売るビジネスです。映像が残ることが問題というのはあまりに根源的なことで、当然対立するだろうし、簡単に解決しようがないように思います。

宮本 今日に至るテクノロジーの進化に、人間としての哲学が追いついていないことが問題なのです。要するに十代や二十代のまだまだ未熟な女の子たちは、出演する前段階ではそういう状態になることを想像していない。現実を見て本当にパニックになって、私たちのところに飛び込んでくる。

――なるほど。相談内容は“AV回収・販売停止・削除”が最も多い。商品の回収は、当然AVメーカーは拒絶する。映像が残ることに混乱するケースでは、どういう支援をされるのでしょうか。

宮本 回収できるものは回収、停止できるものは停止を求める。未成年の場合、メーカーは応じることが多い。弁護士を通じて契約破棄、商品は回収、販売停止にしてくださいって申し入れをします。未成年でない場合はその出演に至ってプロセスを丁寧に聞き取り、申し入れできる、できないを判断します。

――前向きに出演して、契約に瑕疵がなければ申し入れはできないということでしょうか。

宮本 それぞれ。そもそも本当に納得して出演しているのであれば私たちのところには飛び込んではこないでしょう。出演するプロセス、納得できなくなったプロセスは異なります。粘り強く200人200通りの方法を考えます。回収に応じないメーカーさんは、もちろんいます。今でもずっとこじれている案件もある。現段階では裁判に持ち込んだケースはないけど、裁判に持ち込む女性が出てくるのは時間の問題でしょうね。

――求人やスカウトで出演に至った過程に瑕疵があるか、ないかを調べるわけですね。過程に瑕疵があれば、交渉の余地が広がると。

宮本 そうです。ただ時効の問題があります。5年、10年前の話はそう簡単にはいかない。ずっと垂れ流されてしまいます。そういうケースでは精神的なトラウマを、どうするかというケアになります。回収、差し止めできる可能性がある限りは、その可能性を追求します。

――繰り返しますが、出演した本人が嫌がっているから回収ではなく、出演過程に問題がある回収しろと要求するわけでしょうか。

宮本 そう単純化していいのかわかりません。自分の最もプライベートな性的行為の映像の扱いについて、現時点では本人は嫌だと言っていることが重要なポイントです。作品というものは本来消えないものです。しかし、自分の性が丸出しにされた重要なプライバシーが、未来永劫、流されていいのかどうか。それについて社会の体制が追いついていない現状があります。さらに女の子たちは、そのリスクを全然わからないまま出演してしまっている。

――出演したことを後に後悔した女の子は、ひどいケースでどのような状態なのでしょうか。

宮本 気の毒ですよ。本当に気の毒。状況はそれぞれですが、たとえば外出できない。道を歩いて、あなた〇〇さんだよね、って出演名で声をかけられたことでパニックになって、何年間も家からこわくて外に出ることができないとか。自尊感情が破壊された、人と会話ができない、仕事ができないとか。精神科に通院している方たちもいます。通常の社会生活が送れない女性がいます。また好きな人ができても近づけなくなるという例もあります。