ドナルド・トランプの大統領選の中心にあるのは、まさにこのようなメッセージである。彼のメッセージは、従来の保守派とは違う。彼は「家族計画」を支持しているし、産婦人科での中絶には賛成しているし、イラク戦争におけるブッシュ大統領を批判している。

その代わりに彼が主張しているのは、「政治は失敗した。いまこそビジネスを行うべきである」というものだ。彼は最新刊のCrippled America(未邦訳)の中で「私よりもビジネスのことをわかっている人間はいない」と豪語している。しかも「この混乱した状況は、リーダーシップの中でも最悪の形のものを必要としている」と、まるでリップマンが言ったようなことを述べているのだ。

つまり「アメリカには、常識感覚とビジネス的な洞察を持った人間が必要だ」ということであり、これはトランプ氏が持っている要素だとわれわれは確信できる。なぜなら「私はリッチだ。実際のところマジでリッチだから」である。

従来の候補者たちは政策の詳細を打ち出すのに必死だが、トランプ氏はただ単に他人の実行力のなさに不満を述べるだけである。

たとえば国民皆保険制度の改革についての彼の見解は、「ほとんどのアメリカ人に対して健康保険をリーズナブルな価格で提供するというような複雑な問題に対する私のアプローチは、難しいビジネスの上での問題への対処の仕方と同じだ。つまり世界中で最もこの分野に詳しい人物を集めて一つの部屋に閉じ込めて、最も望ましい方法に合意できるまで考えさせる、というものだ」と述べている。たしかにこれはその通りなのだろう。

共和党が伝統的に訴えてきたメッセージは「政府は大きすぎて、権力を持ちすぎていて、強力すぎる」というものであった。ところがトランプ氏のメッセージは「政府が弱すぎて、役立たずで、使えない」というものだ。政治家は敗者で、彼こそが勝者だ、というのだ。

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トランプ氏の無神経さと自己中心的な態度は、たしかに見ものであるが、同時にそれは憂慮すべきものでもある。それでも魅力的なものであることには変わりなく、限界はあるがそれでも強力であり、しかもなかなか収まる気配がない。